ズルい女。@円谷華

「ところでさ、華ちゃん…さっきのはどういうことなの? サッカー部の彼女いる子達を調べてなんて…」



 新聞部を後にし、教室に戻る途中に美月ちゃんは聞いてきた。


 隣のクラスの有田美月ちゃん。

 黒髪で顎くらいのストレートヘア。天使の輪を持ち、清楚なアイドル顔で、スタイルもいい。そしていつも落ち込んでる子を一生懸命励ます女の子。


 彼女とは小学生の時のバレンタインをきっかけにして仲良くなった。



「……サッカー部の話ってさ、止められないと思わない?」


「…引退したとはいえ、翔太くんの影響強いしね…後輩も…言い方悪いけど味方するだろうし…じゃあ、アレって…嘘なの? 華ちゃん何にも言わないし…まあ裕介くんがそんなことするはずない…と思うんだけど…いや、そうじゃなくて、彼女達のこと聞いてどうするの?」


「……あはは…ねー?」


「もー…でもほんとのとこ…裕介くんと翔太くん、何がどうなってるの…? ショックだから黙ってるんだろうけど…」



 美月ちゃんは裕介くんの部分は否定するものの、サッカー部の流した噂を概ね信じている風だった。


 円谷華を柏木裕介が襲い、三好翔太が救った。その際、柏木裕介が骨折し、三好翔太は古傷を痛め休んでいる。だけどやり過ぎたと反省しメッセを入れるも、柏木裕介に無視されて悲しんでいる。


 そんなハリボテみたいな作り話を。


 説明し、否定すれば信じてくれるだろうけど、そうしない。


 多分学校の先生も確認しに行くだろうけど、テスト期間が重なってて動けない。


 裕くんのスマホも壊れてる。


 明日香さんも理由は濁されたという。


 昨日先にばら撒かれた噂が、学校では多分真実になる。


 あのクズは証拠が無いことをいい事に襲ったことをうやむやにし、学校でのポジションを高め、裕くんを悪者にし、わたしから引き離すつもりなのだ。


 わたしの取れる選択肢はいろいろとある。

あのクズを糾弾することも出来る。ファンクラブを大きく動かして大勢をひっくり返す。


 あのクズの目的がハッキリした分、わかりやすいからそんなことは多分出来る。


 でも裕くんのあの拒絶は何とか出来る気がしない。冷静に考えてもあの青い顔はわたしが耐えれない。


 だから。



「うん…ほんと裕くんのこと…ショックで…怪我もしてるから…あんまり…言いたくなくて…」


「え…? じゃ、じゃあほんとに裕介くんが…? そんな……けど流石翔太くんだね…これは惚れたんじゃないの〜? って不謹慎だね…ごめん…」


「…不謹慎だよ。でも翔くん…その…何でもない!」


「…え? ちょ、ちょっと華ちゃんやっぱり聞かせてよぉ!」



 美月ちゃんには、きちんと宣言というか、明言というか、中学に入ってからは、裕くんのことを打ち明けたことはなかった。


 それに、態度は裕くんの前でしか崩してなかった。


 それと、小学校の時のバレンタイン。あの時の負い目があって、なかなか言えずにいたのだ。


 わたしって酷い女だね。


 ごめんね。


 だけど、今日からは違う。


 認識を変えてよく観察する。


 美月ちゃんの様子をきちんと見るために、わたしはあのペーパーナイフを持って立ち、自分の心を滅多刺して嘘をつかせるのだ。


 ごめんね、裕くん。


 ごめんね、美月ちゃん。


 三好翔太、あいつと繋がる人は全て疑ってかかると決めたのだ。


 いつも一緒だったのに、あいつからそんなものを向けられていたなんて、気づけなかったから。


 あいつが中学三年間でどこまで根を広げていたのかわからないから。


 だからファンクラブとわたし。


 仮想と現実。


 両方からふるいにかける。



「えーヤだよ〜想像にお任せするよ〜ふふっ」


「ええ?! やっぱりそうなの!? ちょっと華ちゃ…いや、駄目だよね。あんまり騒ぐとファンクラブ黙ってないし…もう! 今度教えてよね! じゃあね!」



 裕くんとわたしの未来のために。


 わたしはズルくて悪い女の子に、自分をもっともっと凶悪にデザインするのだ。



「うん、バイバイ…」



 美月ちゃんは……黒と。

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