行き過ぎてない愛。@円谷華

 わたしは裕くんのお部屋に泊めてもらった。


 悲しくて、悲しくて、辛くて。


 そんなわたしに、明日香さんは弱い。



「華ちゃーん、朝よー! 一度帰らないとー!」


「は、はぁい! お、起きましたー! でもでももうちょっとだけ…はにゃ…これはもう実質ふーふだよぉ…出張帰りを待つ妻だよぉ…たまんないよぉ…」



 はにゃぁ…堪能した…これは生まれ変わり…いや、過去に戻った気分だよ…わたし…もう、もう我慢できな──



「華ちゃーん!」


「お、降ります! いま降りますからー!」



 


 今まで…と言っても中学一年生まではたまに泊まりに来ていた。


 流石にいろいろ成長した男女を同室には出来ないと父と母に止められ、交渉するも、自分に課した、裕くんぶっきらぼうに告白しての件が邪魔をしてしまい途中で断念していたのだ。


 でも明日香さんとわたしの両親とわたしとの間では話はついている。


 ついてないのは裕くんだけ。


 というか父と母は諦めていた。わたしの行動を行き過ぎていると断定し、可哀想にと疲れた目で裕くんを見るだけだった。


 失礼な。



「落ちたショックだったのか、今は大分落ち着いてるわ。頭は…多分大丈夫。ぶっきらぼうなのは…くすっ、変わらないけどね」


「そうですか! 良かった…ってアタマ?」



「嘘嘘。何でもないわ。大丈夫よ。ほらほら、食べて食べて」


「はぁい! いただきます!」

 


 朝食をいただき、明日香さんに和かに答えるも、昨日の涙の理由は言わなかった。


 あいつに襲われ、裕くんに助けられ、そして拒絶された跡は。


 吐瀉物と部屋の乱れの理由がわからないまま、お掃除をし、パタリと電池が切れて寝てしまっていた。裕くんのお布団で。アレを手にしたまま。


 不甲斐ない。


 明日香さんは、私って行き過ぎた愛中毒だからいいのよと訳の分からないことを言って、夢うつつなわたしの制服を脱がせ、裕くんのパジャマを着せ、布団を被せ、寝かせてくれた。アレも履かせて。流石にビックリするよね、そう言いながら。


 でも別に行き過ぎてないですけど。


 普通のボリュームですけど。


 完璧な仕上がりだったから起きてたの黙ってましたけど。


 なんだか腑に落ちないけど、そのままで良い。そのままなら柏木家と円谷家は上手く事が運ぶ。


 柏木華になる根回しはジワリジワリと侵攻…いや、進行しているのだ。


 そして、裕くんのお世話はしたいけど、学校がまずは先だ。


 蹴散らさないとね。



 


 お昼休み、わたしは友達の美月ちゃんと新聞部に向かった。


 一学年下の女の子、非公式ファンクラブの代表、越後屋ノノちゃんと話すために。



「あなたが代表でいいのよね…これの」


「ひゃ、ひゃい! ですです! しゅみません…公式の件…ありがとうござひました…昨日早速告知しまし…ひぃ!」


「ちょ、ちょっと華ちゃん! 可哀想でしょ! その圧は! ただでさえいろいろおっきいのに…」



「……追加で…今から話すことはシークレットよ。とりあえず黙って聞きなさい」


「はひ! ああ…ナマですよナマ…どうしようどうしようノノどうするのどうなるのノノ…」



 彼女は顔を赤らめ、震えながら、オドオドしながら、チラチラこちらを見ながらわたしの話をぶつぶつ何か言いながら聞いていた。


 ほんとにちゃんと聞いてるのかな、この子…



「…今話した通りにしてくれるかしら?」


「も、もちろんですです! 今の今まで見逃してもらってましたし…ほ、他にもございましたら何なりと! ははぁー! 夢じゃなかった!」


「華ちゃん華ちゃん絵面! 絵面がヒドいよ! 問題なるから! ほら、あなたも土下座はやめなさいってば! ぐぬー、この子硬い!」


「有田先輩ちょっとやめてくれません? 今気持ち良いんで」


「ええ?!」



 越後屋ノノちゃん。

 髪型は黒髪ストレートのセミロング。少しだけ焼けた肌に、小さな体。少し童顔の可愛らしい容姿。なんとなくだけど、昔のわたしに似てる女の子。


 彼女は小学校の頃からのわたしの追っかけだそうだ。オドオドとして…使いやすそう。


 そんな彼女に、公式を餌にしてわたしの希望を叶えさせるのだ。



「…ちゃんとできるかしら?」


「はひ! …あの一つ疑問が…あ! い、いい、いえいえ! なにゆえ姫様が塵芥の事などを…と…愚行したまでで…ありまして…」


「…何か言った? 口答えかしら?」


「い、いいえいいえ! な、何にもなんでもありましぇぬ! ですです! はい…良い…キツい目つきも…はふぁ…良い」



「華ちゃん! 圧、圧! 彼女震えてるじゃない!」


「有田先輩出て行ってくれませんか? 逢瀬の邪魔」


「ええ?!」


「……」



 でも、ちょっと気持ち悪いのよね。じっとりとしていて…チラチラとしか目を合わさない。


 何か見覚えあるのは気のせい…だね。きっと気のせいだ。



「この越後屋! 全て丸はだ、はだ、裸にしてみせます! 新聞部のエースとして! ハナ様ファン1号として! そしてゆくゆくは…あふぁ…直の命令なんてサイコー…ですぅ…夢の公式ですぅ…これは言うなれば直結方程式ぃ…」



 ……連立じゃないの? まあいいわ。それとほら、こういうのを行き過ぎた愛って言うと思うんだ、わたし。



「……華ちゃん、この子ヤバいよ…もう帰ろうよ…ね? でも…何かデジャブ感あるのよね…この子…」


「…そう?」



 美月ちゃんの言いたいことはなんとなくわかるけど、流石にわたしはここまでではない。

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