一緒にやろうよ?@柏木裕介

「…やぁ、裕介」


「……よ」



 森田さんと別れ、病室に戻ると奴がいた。


 三好翔太。学年一のイケてるほうのメンズ。背が高く、甘いマスクに王子顔。勉強スポーツに長け、ずっと親友だと思っていた、幼馴染。



「無事かい? 全然来れなくて悪かったね」


「…普通平日来ないだろ」


 

 というか、寝取り相手だ。いや、時系列的には僕の方が浮気相手だったか。


 そう考えると、悪い気がしてくるな。


 不倫ダメ絶対。いや、浮気か。



「それで怪我は? 大したことはないのかい?」


「…年始辺りには退院…だと思う」



 さっき過去をやり直さないって言ったばかりだしな…当然こいつとも仲良くしないといけないか…



「足はクセになるからね。ほら、一回俺もここに入院しただろ? 小学校の時。まだ足首に違和感あるんだよね」


「そう…だった…な…?」



 あんまり覚えてないが…それよりオーケーオーケー。どうやらこいつには、気をしっかり持てば嘔吐オートセンサーは大丈夫なようだ。


 それにしても…記憶通りというか…相変わらずイケメンだな。大人になるとそれなりに顔がイケてるやつには会う。特に都会は。


 中学でこのレベルか。


 華が惚れるわけだ。


 顔だけとは思わないが、最初から勝ち目ないな、コレ。


 あとはコイツの性格と性癖だけか…


 ……


 アタマおかしいんじゃないっすか?


 じゃなくて…僕はどんな話し方してたっけか。あんまり思い出したくないんだけ…っうっ!


 おっと、脳よ。それ以上はいけない。待て、待て。ステイステイステイ。よしよーし、よーしよし。


 僕が何も備えてないと思ってたかい?

 

 残念だが、もうデザイン済みだ!


 NTR克服系主人公にな!



「平気かい、裕介? なんだか顔色が悪いよ?」


「ッあ、ああ、大丈夫…大丈夫」



 あ、やっぱあんまあかんわ。そもそもそんなんパッと浮かばんわ。連想してピザるだろ。アホか。



「…話し方まで…本当に平気なのか?」


「ああ、平気平気」



 そういや、この辺りって大丈夫ってあんまり使わなかったか…というか、こいつコケてない? なんか憔悴してない? こんな薄幸な感じだったっけ?


 だが僕はツッコまないぞ。



「裕介…華に何か…聞いてないか?」


「いや? 何…も」



 あぶねー。何を、と聞けばストーリーが始まってしまう。僕はツッコまないぞ。



「そうか…どうも俺、華に誤解されてるみたいでさ」


「へー」



 お得意のブラフか? 誤解も何も調教中だろうに。そういうのいらないんだが…それよりこいつは同窓会には出ていたのだろうか。


 30だったら流石に結婚しただろうしな。


 華とさぞ仲睦まじい様子を披露していただろう。


 何、例え誤解があったとしても大丈夫、いや平気だ。過去は未来に必ずあるべき形に収束するだろう。


 そう僕も願ってる。

 タイムリープ殺すナイフ欲しい。


 それに、いろいろとお似合いだしな。


 まあ、こいつが華の事を好きだったなんて、寝取られ知ってからだったけどな。



「へーって裕介…冷たくないかい?」


「いや…ずっと病院だし、スマホないし」



「本当か! あ、いや、スマホは…どうしたんだい…?」


「一緒に落ちて壊れた」



「そうか…そうか! ッあ、あ、だから返事なかったんだね。心配したよ。良かった」


「……」



 いや、何で人のスマホ壊れて嬉しがれるんだよ。明らかそっち嬉しがっただろ。酷すぎんだろこいつ。


 まあ大人だからこそ気づいたんだけどさぁ。


 というか、いくらイケメンでもやっぱり隠れ調教野郎は気持ち悪いな。オープンにするなら良いが、そのギャップはいらねー。


 とりあえず聞きたいことがあれば早よ言えや。んではよ出ていけや。さっきからなんか回りくどい雰囲気プンプンだぞ。


 でも中学生なんだよなこいつ。そう考えるとこの偽装の完成度…やっぱりこいつは努力してたんだろうな。


 あかん方に。


 アタマおかしいんじゃないっすか?



「実は俺…華に告白されたんだ…」


「へー……?」



 お? お、お、お、こ、これは来たのか? 俺の未来来たりけり? 使い方違うか…違う違う!


 寝取られ回避ルートかこれ!


 フューチャーダイヴ効果か!



「へーって…裕介は良いのか…?」


「……?」



 良いよ? あれ? でもこれどうすれば未来に帰れるんだ? あの惨状に二度と出会さなければ、それでいいんだが…この両片思いはどうするのが正解なんだ? 


 つか、さっきの誤解とやらはどこ行った?



「そうだよな…おまえずっと華のこと好きだったもんな。…ショックだよな…俺もどうしたらいいかって! …いや…裕介…悪い」


「……」



 いや…何とも思っていませんが? むしろ震えて吐くだけですが? 


 つーか何か良い顔でスラスラ話すな…


 演技なのは白々しいから普通にわかるが…つーか全然悪いと思ってませんやん。ペラペラですやん。

 

 いや、僕はツッコまない!


 ツッコまないからな!


 未来まで最短ルートを縦軸に積み上げるんだ!



「実はさ、裕介に…美月が好きって言ってたけどさ…誤解で…本当は俺も華が好きなんだ」


「……?」


 

 そりゃ華を好きなのは知ってるけど…未来人だし。


 というか…美月って誰だっけ? しかもこいつそんな嘘ついてたの? 誤解じゃねーじゃん。それに忘れた事実告げられてもリアクションわかんねーよ。


 ああ、でもその美月スキーって嘘が…それが誤解の原因か…華にもそう言ってたんだろうな。


 ややこいことすんなや!


 つか、これって黙ってたらサクサク進む感じ? ポーズないの、ポーズ。


 タイムリープ! ポーズボタンプリーズ!

 シンキンタイムプリーズ!


 チーカマあげるから!


 ここは大事に行きたいぞ。あらゆる選択肢が出てもNTRルートだけは避けたい。現時点で高校二年秋まで駒が進んだと捉えていいだろう。つまりNTR回避ルートだ。


 てか…黙ってたらここまで来たしな。黙ってりゃいいか。


 ゴールは目前だ。


 ここからは双六いらないからな。


 未来に戻りマスなら大歓迎だ!



「だからさ、一緒に告白しようよ。親友同士。それなら後腐れないだろ?」


「……へ?」



 カマーン! ポーズボタン! こいつアタマおかしいぞ!

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