行き過ぎる愛。@森田薫
今日も柏木くんのお家にやってきた。
受験勉強とお料理教室だ。
お母様はまだ少し遅いからと三人で炬燵を囲んでお喋りしていた。
私特製の、柏木くんしか勝たんテスト。それの解答をしながらこの空気を楽しむ。
受験はズバリこの問題しか出ないから、毎回同じテストばかり出すけど、柏木くんは何も言わずに黙々とこなしてくれる。
ふふ。作ったテスト、一生懸命解いてくれて…嬉しいな。
複雑な顔をたまにしてるけどね。
そこだけはキンモクセイくんに感謝だね。
いや、もう違うんだった。
受験、不安だろうけど、頑張ってね。
でも、答え丸暗記でいいのに、毎回答え見ずに解くし、真面目だなぁ。いや疑ってるのかな。でも例えそんな気持ちでも向けてくれるなら、心地いいよ。
一応精神的な保険で別問題も入れておいてあげてるからね。
今日の話題はツルピカ三好丸。あいつ自体はどうでもいいけど、ちょっと調子に乗ってたね。まあ、私の仕込みだけどね。
「あはは…災難だったね〜」
「そうなんだよ。どうやったらああなるんだ…華は知ってた?」
「知りません。知りたくもありません」
三好は柏木くんに人生を捧げてもらうためにあそこまでデザインした。後は、杏奈がちゃんとコントロールするでしょ。
杏奈は私のための保険だし、クズは違う使い方をしたかった。
ヒントは柏木くんの記憶の中にあった伽耶まどかだ。
Vtuberとは考えもしなかった。なんであのイラストと似てたのかはわからないけど、多分ノノ辺りが無断で使ったんでしょ。女優の方もわからなかったけど、大方人気を利用したんでしょ。
だからそれより過去の今は丁度良い。
三好にやらせて稼いで貢いでもらおう。
あなたの推しメンだし、嬉しいよね。
杏奈も杏奈で、好きな弟が好きな人だし、嬉しいよね。
そして今日、三好を見る柏木くんの様子を見た。効果は少しあったように思う。最近姫はポニテに固定させてるしね。クソビッチのトラウマを完全に消すわけにはいかないの。
これも華ツーの為なの。ごめんね。
ここ一月あまり、柏木くんは私の記憶を飛ばさない。
だけど、突然また失うかもしれないから少し怖い。
しかも、今回は初めてのことばっかりで、とても充実して楽しい。だから怖い。
前は、そんなこと気にもしなかったけど、やっぱり最後だと思うと怖い。怖いけど、このまま卒業式まで笑って駆け抜けたい。
「というかなんで急に喋り方変えるんだよ」
「それは…秘密です」
「多分姫的な理由があるんだよ。柏木くんは気にしない気にしない」
多分、お母様と学校の前だけキャラ付けして、二人の時は、なんて考えてるんでしょ。
幼いながらも、いろいろとあれこれ考えて…可愛いなぁ。よしよし。
華ツーはそれでいい。
「まあ私は秘密にしないけどね」
「そっと手を握るんじゃない」
「違うよ。点数は手のひらに書くからね。私以外誰にも見せちゃ…駄目だよ?」
違わないけど、これくらいいいでしょ。あ、照れた。ふふ。
「な、なんでだよ。秘密に誘わなくていいからテスト用紙に書いてくれよ」
「えー? だってさ、くすぐったい顔の柏木くんって萌えぁ!? 危な! 何すんのよ!」
ペーパーナイフでリスカ位置狙ってきたよ、この子! 死なないけどさ!
「…ふーん。これを躱すのね」
「あはは…冗談だよ、姫」
目つき怖! それよりそのナイフどっから出したのさ! 柏木くんには見えなかったけどさ! 今遅れて認識して震えてるけどさ! もー!
初めて喧嘩した時も無茶苦茶だけど速かったし…
咄嗟に出した膝が食い込んで良かったよ。
ズルいムエタイ、わたしボクシングって言ってたね。
そういうところ、嫌いじゃないよ。
でも、姫とはスペック的には同程度だけど、日に日に手に負えなくなるな…身体の扱い方なんて、教えるんじゃなかったかな…こっちはチーターなのに…
まあそうじゃないと困るんだけどね。
でも、最近姫の様子がおかしいんだよね…
「薫ちゃん…わたしのこと騙してないよね?」
「…んなわけないじゃん。失礼だな〜」
今まで、がっつり仲良くした過去はないし、いつも三好とくっつくから、そこまで注目してたわけじゃない。
最近は三好姉妹(笑)で忙しかったのもあるにはあるけど…
言葉遣いが変わる時になんとなくだけど、瞳の奥底に仄暗い揺らぎを感じる時がある。
諦めて、諦めきれなくて、諦めさせてくれなくて、諦めたくなくて足掻く、そんな絶望の牢獄に居る私のような。
「薫ちゃん、それよりお料理しましょう。今日もよろしくお願いします」
「…わかったよ。柏木くんは大人しく待っててね」
なわけないか。今はハッピーなんだし、ただの嫉妬でしょ。それにここは私のループ世界だし。
それより何より、柏木くんと団欒することに比べたら大したことないし、まだまだこの時間を楽しむんだから。
「元からそんなに動けないからな」
「だよねー。あ、そうだ。後でマッサージしてあげるね。リハビリも兼ねて後でしよっか」
「薫ちゃん!」
「何よ。ちゃんと後でやり方教えるからいいでしょ。何? あ、エッチぃのだと思ったの? やらしー」
「そ、そう…じゃないよ! 明日香さんに誤解されたら…きっとアナーキー…されちゃうよ…」
「お前は何を言ってるんだ。何だアナーキーされるって」
「ゆ、裕くんは知らなくていいんだよ! も〜馬鹿!」
「なんでだよ」
やっぱり気のせいだね。まあ、お母様は買収済みだし大丈夫なんだけどさ。
アナーキー? はわからないけど。
「はいはい。お二人ともストップストップ。姫、お料理教室始めるよ」
「はーい〜裕くん、待っててね! 今日こそは! 薫ちゃんに勝つから! わたし!」
「あ、おい。せめて母さん帰るまでに説明を…はぁ…もーなんなんだよ…」
◆
もう全て把握した柏木家キッチンに立つ私と姫。
今日のメニューはもう決めてある。
じゃあ今日も今日とて、健康食材をぶち込んで、丁寧に丁寧に身体に良いもの作っていこうか!
「ふふ…美味しいの作ろっか」
「負けないから、わたし!」
えー、まだ負けてあげないよー。
でも、姫はそんなに私を警戒しなくていいんだよー?
だって……ここに来る私の目的は、柏木くんじゃあないんだもん。
んふ。きっちりあなたをデザインしてあげるからね。
私の為にね。
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