わたしの耳に未来が聞こえた。@円谷華
中学最後のクリスマスを目前に控え、その高揚感もあった。
実際告白してもらえたら、どうしよう! なんて妄想お花畑にいたのもあった。
浮いた話が無かった翔くんの美月ちゃん話もすごく気になったのもあった。
有田美月ちゃんは、今ではわたしの仲良しの友達でもあるし。
それに両親はもうすぐ帰ってくるはずだからと、慢心していたのもあった。
「えっとね〜、あ、そこに座って。もう一冊どこだったかな〜?」
「……ああ」
クリスマス特集は去年のもあった。それには、女の子が欲しいもの特集があったから翔くんに見せてあげたい。
美月ちゃんとは仲良いけど、流石にわからないし。
あ、でもでもグループデートとかありかも。
というか、二人ともまだ告白してもされてもないし、気が早いか〜
実質わたしから告白してるようなものだけど、ちゃんと裕くんから言って欲しいし。
去年は結局裕くんとこと合同家族パーティになって甘い交換なんて出来なかった。
まあ楽しかったからいいんだけど。
そんなことを思って、雑誌を探していた。
「ん〜去年のもあったと思うんだけどな…あ、これこれ…って翔くん? 座ってていいよ? わたしお茶入れてく……翔くん…?」
「………華……俺…」
「? ああ、美月ちゃんのこと? それ見て待ってて。まずはあったかいお茶を───」
すっかりこの三年間で騙されていた。
すっかり恋バナカモフラージュに騙されていた。
部屋に案内して数分も経たない内に、強引に手首を掴まれ、ベッドに押し倒され、無理矢理にキスを迫ってきた。
「え、な! きゃっ! な、何を───」
「華…! 俺はお前が…好きなんだ…! 昔からな…ほら、じっとしてろよ…! へへ…」
「ッ……!」
ギラギラと血走る目。
獣のような息遣い。
肌に感じる不快な熱。
振り解けそうもない、邪悪な力。
そして硬い何かがお腹に当たる。
小学校の時の悪童振りを思い出し、身体が恐怖で震えてくる。
騙されたのだと遅れて気づく。
わたしは何にも言えなかった。
だって抵抗を口にすると体内にその邪悪が侵入してきそうで、唇をぎゅっと固く結んでいたから。
睨みつけても効果はない。
涙がウルっと目尻に溜まる。
ガタガタ震えて力が上手く扱えない。
裕くん…助けて…!
あと数センチまで迫ってきた時だった。
目を強く瞑ったわたしの耳に、未来が聞こえた。
「──フュ──チャ───!」
わたしは目を見開いた!
翔くんも顔を上げた!
裕くんの声だ!
裕くんとわたしの未来のことだ!
震えは止まり、力がみなぎり、手を振り解き、跳ね除け、わたしは翔くんに思い切りビンタをぶちかました。
それからどれくらい無言で睨んでいたかわからない。
睨むだけで、声が出ない、出せない。
わたしはこの幼馴染の豹変に、悲しさと悔しさと困惑と恐怖でいっぱいだった。
でも裕くんが助けてくれた。
恐怖に未来の魔法をかけて無効にしてくれた。
だから銀色のペーパーナイフを手に持った。
裕くんがくれたキリンの持ち手のお気に入りだ。
それが武器と盾になって、こいつの足を縫い止める。
それがお守りになってわたしの恐怖を和らげる。
心が勇気で満たされてくる。暖かくなる。
キリンさんが好きです。でも裕くんの方がもっと好きですって違う! 違わないけど今じゃない!
そのペーパーナイフに力を貰い、わたしは散々こいつを罵倒した。
人の気持ち裏切って!
許してなんてやらない!
出ていけ!
多分そんな事を叫んだと思う。興奮してよく覚えていない。でもわたしの剣幕にひいたのか、あいつはスゴスゴと帰っていった。
でも、ホッとしたヘナヘナのわたしを待っていたのは、ダメな方向に曲がった足首と白目状態の痛々しい裕くんだった。
それを見たわたしは吐いてしまった。
そして、駆けつけたいのに意識が遠のく。
遠くに救急車のサイレンが聞こえた気がする。
そこがわたしの限界だった。
わたしは不甲斐なくも気絶した。
その日、わたしの大好きな人は、わたし達の未来を叫んで二階から落ちたのだ。
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