わたしは心を奮い立たせる。@円谷華
目覚めた時にはもう夜中だった。
わたしは部屋のベランダで倒れていたらしい。
介抱してくれた両親は、暖かいお茶をくれながら教えてくれた。
直前の記憶は、あいつを追い出し、玄関の鍵をかけ、裕くんに電話をしようと部屋に戻り、未来の行方を目で追うと、倒れているのが見えた。
わたしの家と裕くんの家の間には裕くん家の庭がある。
そこに無残な彼がいた。
そこから記憶がない。
両親から裕くんのことを聞くと、二階から落ちたと言う。
裕くんのお母さんが教えてくれたらしく、どうやらただの骨折だけで済んだようだった。
興奮してあいつと対峙してたからか、落ちた音にはまったく気づかなかった。
救急車も出動したらしい。
今は病院にいると言う。
今日はこのまま泊まるみたいだ。入院か…寂しくしてないかな…わたしは寂しい…
そんな事故などなかったみたいに、辺りは静かで物寂しい。
そして、最後に見た足の角度が頭から離れない。自分で曲げてみようとして、両親に止められた。
でも白目は止められなかった。
何か可哀想なものを見る目で見られた。
可愛い娘になんて目を向けるの。
怪我らしい怪我なんてしたことのない裕くんが、気絶していた裕くんの白目が、頭から離れない。
肩が震えて、コップが揺れる。
飛び降りたのか、落ちたのか。
………
……待って。
そうだ。普通、未来と叫んで人は落ちない。
落ちそうで危ない時に人はフューチャー言わない。
もしかして。
もしかしたら……わたしの部屋の様子が見えたのかもしれない。
こっちから裕くんの部屋は覗けるんだし。
いつも覗いてるんだし。
内緒だけど。
だから誤解したのかもしれない……。
ショックで飛び降りたのかもしれない。
心がゾワゾワする。
心臓が冷たい。
翔くん。いや、あいつの裏切りに涙する。
メッセには謝罪と反省が入っていた。
返事なんてしない。
それに気絶していたせいか、眠れない。
裕くんの無残で悲痛な姿で、眠れない。
あいつの裏切りの悔しさで、眠れない。
裕くんに、逢いたい。
誤解を解きたい。
あ……でもでも、飛び降りてしまうくらいわたしのことを思ってるって言えると思うんだ。いや、この説しかない。
一応念のため万が一で確認したいけど、裕くんのスマホは壊れたらしい。
声が聞きたいよぉ。
幼い頃、いつも側にいてあげるからといつも花咲く笑顔をくれた裕くん。心にいつも安心をくれた裕くん。毎日に彩りと鮮やかさと暖かさをくれた凄腕魔法使いの裕くん。引っ込み思案で、臆病なわたしを同じ目線で元気付けてくれた裕くん。
保育園からの仲だ。
それは惚れるよ。
気づいたの他の人の告白だったけど。
ごめんね。
美月ちゃんもあの時ごめん。
最近の裕くんは過度な接触を嫌がる。
わたしはもっとくっつきたいのに、周りを気にするのだ。
照れて前屈みになるのだ。
照れ屋さんと気遣いさん。この二つが同居している優しい裕くん。
そんなあなたが好き。
それから少しだけ、眠れた。
◆
いつも三人で登校していたけど、今日は一人だ。
朝一緒に学校に行かなかったことなんて、風邪くらいしかなかったのに…
本当は今すぐにでも病院に向かいたかった。
流石に両親に止められた。
そして、いつもの待ち合わせ場所を通るとあいつはいなかった。
時間も変えたし、待ち合わせなんてしないけど。
いたとしても、わたしには祝福のペーパーナイフがある。
昨日眠気が来るまで、一心に研いだ。
裕くんを思って研いだ。
あいつはただのウェディングケーキ。
なんてね。
◆
気持ち早足で学校に着くと、待っていたのはヒソヒソと囁かれる裕くんへの誹謗中傷だった。
「………」
昔なら、今までなら決してわからなかっただろう。
人の謝罪を信じていただろう。
人の反省を信じていただろう。
人の善性を信じていただろう。
でもそれは、裕くんがそうだったから、身につけたわたしのボーダーで。
コミュ力を高めてきたのは裕くんとの距離と外堀を埋めるために行ってきただけで。
小学校の卒アルの夢、ちゃんと叶えるためにわたしは今まで頑張ってきた。
ちょっと頑張り過ぎたけど…
ファンクラブとか要らないんだけど…
叶えたいのはそれじゃあない。
わたしは絶対に叶えるんだ。
裕くんとの輝く未来を!
だから人の悪意に触れたわたしには、見える。
これを仕組んだやつが許せない。
だから裕くんの口癖を借りて、わたしは心を奮い立たせるのだ。
「きったないデザイン……没ね」
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