青春は爆発しそう。@柏木裕介

 森田さんに車椅子を押されて、隣の公園にやってきた。



「ありがとう。寒いから戻ってていいよ」



 寒いし悪いからと断るもなかなかに強情で、押し切られた。まあ、そんな営業は割と好きだ。


 押しに弱いやつ見つける感、大事。


 僕のことだ。


 よし、こい。



「まあまあ、まあまあ、私の推しだし、気になるし、男前に描いてね」



 ……良かった。第一声があの人が彼なの、じゃなくて良かった。


 どう反応して良いか、本当に悩んでいた。


 緊張するお父さんの気持ちに軽くなってた。


 でも推しなのは推しなんだよな。後ろからの圧がすごい。ワクワクとした期待を感じる。


 ハードルが上がる。


 そののれん、潜っていいっすか?



「…まあ、多分そんな上手くないよ。気分転換だし…」



 こちとら未来人で絵に関しては…はてさて何年振りじゃろうか? くらい描いてないんだぞ。


 だから15年はやり過ぎだってぇ。



「上手く…ない? 柏木くんが? この前見せてくれたの、すごい上手かったけど…」



 あれ? これバレる? 


 下手すぎて。


 だいたいこういうタイムリープ主人公ってあいつSUGEEEEでバレない?


 あいつYOEEEEでバレるとかなくなくない?



「あ…あー、手がね。飛んだ時にね」


「手?…飛んだ…? え、まさか自殺…未遂…?」



「…ははは、ないない。ちょっと近所の崖を飛んだだけ」


「崖?! ……って騙してる? そんなのこの辺りにないでしょ」



 ですよね。


 自殺未遂に引っ張られたな…サスペンスドラマの最後辺りが浮かんでしまった。何もあんな崖に集まらなくてもよかろうに。


 だが、時に強引に傲慢に、誰も徳も損もしない、すぐバレるしょーもない嘘をつく。


 それがおじさんだ。


 おじさんの証拠だ。


 身に覚えはありまーす。


 あ、落ちたでいいのか。



「ごめん、嘘。滑って落ちただけ。だから気にしな───え?」



 えええ!? 抱きしめられた!? 何してんのこの子?!


 てか淫行で捕まっちまう! 都会は怖いんだぞ! いや、今は田舎で学生だしいいのか。


 じゃない、良くない良くない! 推しウッドくん見てる見てる見られてる!


 間男なんて嫌だ!


 僕、森田さん、そして木。


 いや、なんないか…


 だいたいそんな性癖はあいつ────うぶっ…



「……何か悲しいことあったら…相談してね? よしよし、よしよし」


「?! ッ、な、にを…」


 

 森田さんは僕を後ろからフワリと抱きしめながら、頭をナデナデしてくれた。


 ?……吐き気が…治まった?


 でも、ぽつんとそこに未来人たる僕にそんな温もりは特攻だぜ? 


 惚れてまうやろ。


 ちゃうちゃう。


 ほのかに、金木犀の香りがする…香水…?


 トップノートは…ピーチと……わかんないな。でも生っぽいリアル金木犀の匂いだ。上手い。


 この香りの…おかげか?


 それにそんなに女子女子してない香り…男女兼用かもしれない。後で教えて貰おう。洋物か和物か。


 和物だとしたらマズい。


 未来の日本、GDPドイツ並みだし。


 ブランド死んでるかもだし。


 ってちゃうちゃう。


 じゃなくて、今は肩にのる二発の爆弾処理だ。


 流石に15も下の子に欲情したりしないが、絵面が青春過ぎる。


 青春はキツい。


 照れムズだ。


 それに、彼女が本当に心配してくれているのが伝わるが、僕にそんなのしなくていいよ。


 強がりなどではなく、事実だ。


 僕はリプレイしないのだ。


 それとなんだか悪い気がしてきた…あんま適当に言うもんじゃないな。


 すんません、おじさんで。


 しかし、ほんとこの子良い子だな。


 将来が不安になる。


 距離感とか…いや、いつの間にか…僕が汚れてたのか…。

 


「…ね、この公園は…来たことある?」


「…いや…怪我とかしたことない…からなぁ。この病院自体は風邪とか診察で来たことあるけど…でもすぐに帰ってたな。今回が初めてだ」



「…そっか…ね、もう少しあの子の近くに寄らない?」


「あ、それはいいね…おわ?!」



 ちょっと離れてくれないか?! 抱きしめながら押さないで! 白い吐息が耳にかかって、流石に前屈みになっちゃうから!


 いや、今なら寒さと服で乗り切れる。


 防寒はバッチリだ。


 それにもう、ピタリとしたスタイリッシュスーツでは無いのだから。


 じゃなくて青春が眩しくてキッツいんだってぇ! 照れる〜! むず痒い〜!



「ゴーゴー! あはは〜」


「ちょ、ちょ、ちょい! 速い! 待て待て待て!?」



「辛い時は遠慮しないで〜!」


「してねーよ! アホか! やめろ!」



 押されていろいろ辛いんだよ! 僕の過去が未来で爆発しちゃうから〜! 青春リスタートやめれ〜!


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