バタフライザリッパー。@柏木裕介

 「ヤな夢みたな…」



 昨日は全力で頭使ったからか、速攻寝た。受験勉強に絵描き。


 仕事とは違う充実感があった。


 これはぐっすり寝れる。まるで難しい案件が、こちらの言い分通り通ったみたいな爽快感と充実感があった。


 だのによお。


 今からの未来で、未来からすれば過去で…なんだかよくわからなくなるな。


 願望を思い浮かべながら寝ると、見たい夢を見れるなんて後輩が言ってたから、未来を思い浮かべながら寝たのに。



「誰だあれは」


 

 僕はあんなにあいつに狂ってないぞ。確かにエンジェルナンバーと猫足とシャンペンなブルーはイカしてはいるが。


 それを、それに…初恋だなんて、そんなのして…してたのか僕は。


 確かに運命的に出会ったのは間違いないし、ええやんこいつ、って思ったのは思った。


 でも初恋とか言い過ぎちゃう?


 くそ、覗きを疑われてから自分に自信がない。


 タイムリープ君。


 昨日の発言は嘘だ。


 絶対許さないからな!


 僕に青い春は要らないんだよ! 僕の青い車を呼んでこいや!


 そうして青い海に連れてっておくれよぉ!


 置いて来た何かに僕はキスしたくないんだよ!





 病院をキィコキィコ出歩くと、至る所がクリスマス色になっていた。



「クリってんな…」



 そういえば、入院した日以降、あちこちのPOPが赤と緑にクリクリしていた。


 クリスマスシーズン…か。


 クリと言えば…最後の記憶、同窓会の案内状…をゴミ箱に捨てたのは夏の終わりだった。


 会の開催は秋分の日、だったと思う。


 まあ、春は決算時期の会社が忙しいし、 梅雨は雨が多い。夏はおじさんみんなが嫌だ。そして冬は雪で不便だし、普通は避ける。


 だから秋なのはわかるが、この季節のズレも何か関係あるのか…


 なんてな。


 くそタイムリープにそんな機能なかろう。


 絶対テキトーだテキトー。


 適切にことに当たれやこの野郎!


 戻すならちゃんと秋に戻せや!


 整ってないと何か嫌なんだよ、僕は!


 推しウッドくんも満開だっただろうし!


 きっといい香りをムンムンと醸し出していたはずだ!



 ……違う違うクリだクリ、クリスマスだ。


 立ち止まって案内を見てみると、どうやらこの病院では慰問というか、近所の小学校、つまり僕の母校の小学生が集まり、寂しい一人身のご老人などを盛り上げるそうだ。



「日付は…明日か」


 

 内容は歌謡ショー…合唱隊にプレゼント会。帽子とかメッセージカードのプレゼント。


 しょぼいけど、心だ。


 心がいいんだ。



「しかし、合唱か…」



 そういえばなんか指揮者させられたような…中学の…何年生だ? というか楽譜も読めない僕に指揮とかよくさせたよな。


 指揮棒を振るも、だんだんズレていくのはわかる。みんなの顔が曇るのもわかる。それはわかるが、なぜズレたのかも、なぜズレてるのかもわからなかった。正解も不正解もわからなかった。


 いろいろと文句を言われ、変わろうかと言ったらそういうことじゃないなんて言われ…本番では…よそう。


 あれも多分嫌がらせだったんじゃなかろうか。


 はあ。


 なんというか、自分の歴史とはいえ、思い出すと結構辛いな。特に多面的に考えれる大人になると、ツラい。


 あの時、本当はああだったんじゃないか、なんて考えてしまう。


 しかも、今は過去だ。薄らとした記憶の中だ。例え何か起きてもその当時と違い、対応を変える、というか、変えざるを得ないだろうし。


 なんとなく過去を変えたり、変えてしまったり、変えたくなるタイムリープ主人公の気持ちがわかってきた。


 多分彼らの多くは未来に満足出来ず、過去に理由を求めている。


 つまり、たらればの解消だ。


 そんなの積み上げるもんじゃないのはわかるが、世の中にはバタフライエフェクトなる言葉があってだな……


 ……あれ? これもしかもう無理っすか?


 バタフライどころかジャックナイフでこの過去をめちゃくちゃに切り裂いてしまったし……


 あの時フューチャーダイヴしなければ…!


 ちょ、待てよ! なんて俳優みたいに気を効かせてくれたら…!


 僕の馬鹿…!


 タイムリープにまんまと踊らされちまったぜ!


 つーか、普通自殺すんだろ! 普通!


 はあ…ればたらだな。笑っちまうぜ。


 次行こう次。


 次だ次。笑とけ笑とけ。


 しかし…下手に過去をイジるとあの会社も僕の車にも出会えない気がする。


 ………


 今、最悪な答えが頭をよぎってしまった。


 もしかして……告らないと…あの日に帰れないとか…?


 ははっ……嘘でしょ…バーニィ…? 嘘だと言ってよバーニィィィィ!


 ってそれはもういいか…ゲロ吐きそう。


 これ、夢オチしない? 胡蝶の夢とか。


 切り裂きたいんだけど…


 ああ、よゆーが無い。もどかしい。


 くそ、また、絵を描くしかない…頭がおかしくなりそうだ。



「あ、柏木くん! お疲れだね! ならまた絵を描こうよ!」



 エスパーか、君は。


 そう思い、声を頼りに振り向いて見ると、森田さんの腕は絆創膏まみれだった。


 ええええ?!


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