お前ふざけんなよ!@柏木裕介

「はは。将来の夢…一応…叶ってるのか」



 暇つぶしにと言い訳した小学校のアルバム。その最後らへんのページを捲ると、将来の夢が書いてあった。


 僕の将来の夢はデザイナーだった。


 正直見るまで思い出せなかった。


 小学生の時はそれはもう漠然とした夢だった。


 確か何かの番組を見て…あ、これ良いじゃん、くらいの軽い気持ちで書いた…と思う。



 一口にデザインと言ってもいろいろなものがある。今、過去であるこの時代はまだそこまで細分化もされてなかったし、デザインって言葉が一人歩きしてるような時代で。


 未来の僕はプロデューサーみたいな仕事だった。偉そうな肩書きだが、その実は尻拭いみたいなもの。


 まあ、1チームを運営して持ち込まれた商品をいかにしてユーザーに届けるか。あるいは商品の開発から宣伝まで請け負うことなどもあった。


 その後のテコ入れも含めた業務の裏方みたいなものが主だった。ADでいっか。要は責任ある雑務担当だ。超ADだ。


 まあ少なくない額の金が動くんだ。


 当然リトライなんかない。


 その結果、はみ出す事を許さない。はみ出すやつはその主張も含めて一本のレールにマイルドに乗せて納期というゴールを目指す、半ば強迫観念に取り憑かれた思考になってしまった。


 まあ過去体験から繋がってるのかもしれないけど。


 だからやり直しとか寝取り返しとか無理だ。リトライは要らないのだ。


 世の中全てが結果だ。


 積み上げた結果だ。


 僕が積み上げたのはそれなりの金字塔だ。


 だから僕はそれなりの未来に帰りたい。



 まあ、人生設計出来てると思えばいいか…


 このレールをあの未来まで歩いて行こう。


 足折れてるけど。



 未来は趣味趣向に合わせたデザイン+αの時代だった。


 そもそもデザインとはデッサンからきた言葉で…ってあれ? なら美術部で良かったのか。


 僕は中学高校と美術部だった。


 まさか小学校のここから来てたのか、これ。


 全然忘れてたな…


 しかし…ああ…なんか…思い出してきた。懐かしいな…あの頃は無限に時間があると思っていた。ひたすらに描いていた。


 高校で出会った美術教師は自転車と同じだって言っていた。描き方さえ身体に叩き込めば、長く描かない時間があってもまたすぐ描けるようになる、だっけか。


 自転車だって長く乗らなくてもまた乗れるでしょう? なんて言ってたな。そのためにはある一定の水準まで描きなさい、だったか。


 だからこの身体では描けないのかも知れない。

 

 でも結局未来では、調整と根回しと尻拭いと。それが主な仕事になってしまった。


 絵、関係ねー。


 精々が確認用として簡単な走り描きするくらいか。


 まあデザイナーっちゃあデザイナーか。


 広義の意味で。


 そうして小学生の僕の夢を叶えたことにしておくれ。すんません。


 でも、小学生の時の夢を叶えたやつはいったい何人いるだろうか。こんなの書いたなって笑い飛ばすんだろうか。


 華は…よそう。


 僕はアルバムを閉じた。


 しかし、このままあの会社にまた勤めたいな…けど高校卒業してすぐに出て行けば母さんの死に目に会えないしな…まあ検査次第か…でもどうしようか……ん?


 あれ…? 卒業も何も…僕今受験生じゃね?


 ……


 ははははは………ガァッデムッッ!


 タイムリープゥゥゥゥッッッ!! おま、お前ふざけんなよ! 受験前はやめろや! せめてそれは乗り越えたれや! もしくは助走もうちょっととれや! 私立とか家が無理だぞごらぁ! 母を先に過労で殺す気かぁぁぁッッ!


 …早速人生脱線しかけでゲロ吐きそう。


 胃はタイムリープしてないのか…


 タイムリープ死ねッ! このダボがッ! 

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