未来の僕。@柏木裕介
僕は
30歳独身だ。
高校を出て地元を飛び出し、大都市に向かいすぐに働いた。小さな広告代理店に勤め、今の時代に合わせた広告を打ち、メキメキと会社は大きくなった。
会社が大きくなるにつれ、それなりに出世し、それなりの裕福な暮らしをし、独身貴族を楽しんでいた。
彼女はいない。ルックスも悪くないし、まあまあモテるが、僕には事情があった。
あの高校二年の夏。
幼馴染のあいつを親友だったあいつにこれでもかと寝取られていた事実から、女性は避けてきた。
あの時の僕は恋に懸命だった。燃え尽きるくらい愛に必死だった。
若さと情熱。それだけがあった。
今思えば親友は稚拙な男だった。それが今の歳ならよくわかる。何度か勝てるチャンスもあったのだとわかる。
結局のところ、それを見逃し、気持ちに振り回されて、自分の器の小ささを突きつけられた。
あの時のごめん、だけは今でも思い出す。
選ばなくて、ごめんなさい。
騙していて、ごめんなさい。
そのいずれか、もしくは両方だったんだろう。
17年間の最後がごめんの一言。
余計に惨めになったもんだ。
その瞬間、燃え尽きてしまった。
もうあんな目には会いたくない。
趣味らしい趣味も特に無く、まあ仕事が趣味と言えば趣味か。
出張明け、ポストに溜まった一週間分の配達物を処理しながら自分で挽いたコーヒーを飲んでいた。
「中学校…タイムカプセル? …なんかあったな、そんなの」
同窓会の案内状が入っていた。
まるで結婚式の招待みたいな封筒だ。
ああ、これ15年会だ。
卒業して15年経って、タイムカプセルを掘り起こす我が母校、我が中学の伝統行事だ。
掘り起こすと言っても二宮尊徳像の下の台座の裏に保管してあるモノを当時の担任も呼んで返す、みたいな行事だったはず。
モノはなんだっけか。未来の自分に向けた作文…いや、詩だったか。
覚えてないな。
けど…思えば一番満たされてたか。
中学は小学校からの友達も多かった。ああ、久しぶりに会う、それも良いか。
ふと、幼馴染のことを思い出す。
「いや、いらんいらん」
別に彼女のことはもう恨んでいないが、今更仲良くも出来ない。周りは気にもしないだろうが、僕自身が楽しめないだろう。そんな空気をせっかくの同窓会に持ち込みたくないしな。
「今日はドライブでも行くか」
ついでに美容院に行って、さっぱりしよう。
そうだ。今夜の飯は、豪華にしよう。
どこに行こうか。
そう思いながら、招待状をゴミ箱に捨て家を出た。
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