そうして僕はデザインされた。
墨色
フライトゥザフューチャー!@柏木裕介
時刻は午後6時。
赤々とした夕陽が差し込む自室の中、ペタリペタリと顔を触りながら呟いた。
「嘘…だろ…?」
そりゃそんなチープな言葉も使いたくなる。鏡に映る僕は間違いなく僕だ。
さっき学生鞄を漁って出てきたスマホで日付を確認した。
15歳の冬。
中学三年生の冬。
日付から冬休み直前。
15年前の15歳の僕が鏡の中の正体だ。
ははは。いや、なんでやねん。
もっかい言う。
「なんでやねん…つーかなんなんだ、これ…」
しかし…あんまり変わらないと思ってたけど、まあ肌質が違う。眼球の白さが違う。髪質も違う。髭も薄い。
この産毛みたいな髭、恥ずかしいな…牛乳吸いそう。
うわ、眉毛ヒドイ! ちゃんとデザインしろよ、僕氏。
目元のクマ…なんか、これだけは変わらないな。でもこの時あったっけ…?
いやいやいやいや…ちゃう。
全然ちゃう。
そんなことよりどうしてここに僕が?
最後の記憶は確か…車に乗ってドライブしようと…まずは美容室行って、さっぱりして…美味い飯を食べるのに検索してて…
「事故ったのか…? 身体は別に…なんともない…」
で、15歳学ランからリスタート? まじで…?
スマホをとりあえず漁りながら、顔を触りながら、貧乏ゆすりしながらぶつぶつと声に出ないくらいの音量でつぶやく。
冷や汗が止まらない。
身体が震えて仕方ない。
だから地雷を踏み抜いた。
僕の自爆だ。
「…は、華…ぅぼうげぇぇッ、げぇ、ぅげぇ、ごほっ、ごほっ、はー、はー…う、うぅ、ははは」
盛大に吐いた。
まだ…治ってなかったのか…
スマホ内の写真には、そりゃあ幼馴染との写真がワンサカ溢れていた。
そういや、こんな顔してたな。
はは。嘘だ。
覚えてる。
中学二年の頃からグングンと美しい方向に成長し、類稀な美少女として近隣の学校の男女を震撼させた、僕の幼馴染で、お隣に住む、大切で最愛の女の子だった。
そう、だった。
だった、だ。
酷く裏切られてからは一度も会っていない。クラスでも近所でも顔を合わす度に逃げた。
そして僕は高校卒業とともに、この街から逃げたのだ。
ふー…待て待て待て。
冬休みってことは、確か…調教スタートだっけか。高校二年の時、あいつに振られた、いや振った時にゲロってたな。
もしかしてまた寝取られからスタートしろって…? もしくは寝取れって…? そんなことさせんの…? そんなの嫌すぎる…鬱かな?
悪い夢なら早めに覚めてと歌ってしまいそうだ。
ああ、そうだ。
これは夢だ。
あいつを忘れるためとはいえ、必死に努力して僕は生まれ変わったのだ。
今更後悔なんてない…と思う。
しかし、こんな忘れ去った記憶を呼び起こしたのは…あの同窓会の案内状のせいだろうか。その案内状を見て…ゴミ箱に捨ててドライブに出た。
そこから記憶がない。
しかし、15年前か…
忘れていた記憶を不意に思い出す。
例えば匂いだったり、光だったり、音だったり。
それに殴られ、瞬間的に、連鎖的に、自動的に思い出す。
それが怖くて仕方ない。
脳はその全てを覚えてる、って誰か言ってたな…誰だっけか。
いや、多分これは死ぬ間際の見せる夢だろう。忘れ去っていたはずだが…やはり後悔でもしていたのだろうか。
いやいやいやいや…走馬灯リプレイとかいらないし。
「は、はは…なんだよ、それ…んなもんいるかッ!」
くそっ、夢なのに強がりっぽく自分でも聞こえてしまう。酷いストーリーだ…空笑いも愛想笑いも溢れてしまう。
けど、誰が見せているかは知らないがお生憎様だ。
僕はリスタートしない。
リプレイもいらない。
だからいつもと同じことをする。
一番下まで掘り下げる。
フラットにしてから検証する。
グシャグシャに壊してから組み立てる。
僕は今の自分をデザインする。
「フライトゥザフューチャー!」
そう叫んで、僕は二階のベランダから勢いよく飛び降りた。
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