【いつかのタイムカプセル】幸せなら呪うから

初めて会った時は覚えてるかな。


お父様が亡くなる時だったよ。


病院の廊下にぽつんと座る君が居た堪れなくて。


私は君に声を掛けたんだ。


そしてお気に入りの木を自慢げに紹介したんだ。


そしたら君は悲しいのにニコニコしてくれてさ。


今思えば、その時、私は君に恋をしたんだ。


看護師さんと恋バナしてさ。


楽しかったなぁ。


たったそんな事でなんて君は言うけどさ。


私にとってはそれが一番だった。


一番の宝物だった。


まあこの時空じゃあ君はどれもこれも覚えてないだろうけど。


あの金木犀はわたしの大好きだった。


誰も助けてくれないあの公園の金木犀。


いつも引き抜かれる金木犀。


病室から眺めていた金木犀。


何度タイムリープしてもダメだった。


病弱な私じゃダメだった。


君との思い出を引き抜かれたくなかった。


それを、ある時あんなにも大きく描いてくれた。


ブランコよりあんなにおっきいなんて、素敵な表現だった。


市のコンクールで金賞を取ったの。


そのおかげであの金木犀は残ったの。


いいデザインしたよね。


君はデザイナーだよ!


なんて興奮して君に言って。


君はデザイン、デザインって口癖みたいに使い出して。


良く考えたら絵描きさんか画家さんって言えば良かったなって後で気付いて。


そして納得して死んで。


でも次の心残りが生まれちゃったんだろうね。


なぜかまたタイムリープしたんだ。


でも違う世界線だった。君はコンクールに落ちていて、君は私を忘れていた。


悲しかったなぁ。


でも、あの金木犀は助かっていた。


だけど、君は別の花に夢中だった。


あーショックだったなぁ。


初恋だったのに。


でもそれで良かった。あなたが幸せならそれで良かった。


たった15年の人生で、一番の金賞をくれた人に幸せになってほしい。


ただそれだけの想いだったの。


中学の三年間は、ほんと綺羅綺羅としてたなぁ。


必死で、なのに楽しそうに絵を描く君の横顔を眺めているだけで心が満たされてさ。


一緒に描いた文化祭の看板。


楽しかったなぁ。


コンクール用のデッサン。


照れたなぁ。


私がモデルになってさ。いやぁほんと照れた照れた。すごい無理して頑張って澄ました表情作ってさ。


カチコチなの見抜かれて笑われてさ。


それを姫が嫉妬して不貞腐れててさ。


君は困ったような嬉しいような。


そんな表情を見せつけてくれてさ。


多分家でイチャイチャしてたんだろうけど。


ほんとムカつく。


酷いよ。


わたしが先に好きだったのに。


バレンタインの告白も断るしさ。


まあ、姫は三好とくっつくからご愁傷様。


私、知ってたんだ。


二人が付き合ってること。


ごめんね? 


でも任せていいからね。


私が死んでまでも守ってあげるからね。


ああ、いろいろあったなぁ。


あなたと同じ部活で笑いあう毎日。


拭った絵の具が頬に延びて。


斜陽が教室に差し込んで。


二人を暖かく包んで。


筆が走る音だけ聞こえてた。


そんな陽だまりみたいな心地よさをありがとう。


だからこのタイムカプセルに願うの。


私のいない人生を歩む君が、もし魔法使いになっていたのなら。


君の人生に寄り添うことを諦めた私以外がまったく誰の一人も立ってなかったのなら。


私が戻してあげるから。


ぎゅーんってね。


そしてまた支えてあげるの。


そしてまた応援してあげるの。


だから多少の悪戯は許してね。


私じゃない私に会っても優しくしてね。


出来れば逢わないほうが良いのだろうけどね。多分…私の思い出はきっとなかったことにされるだろうから。


でも君と私は運命だし、いやまあ会っちゃうか。


照れちゃうね。


ふふ。


あ、魔法使いって何って? それは気にしないで。まあ、不幸せの証拠かな。


それくらいしか定義が思いつかなくてさ。


今回初めて思いついたんだよ。


上手くいくといいな。


だって君が幸せじゃない世界は、私は望んでないの。


だからタイムカプセルに呪いをかけるの。


それなりの幸せじゃ満足できないからさ。


だって君と私の二人分だもん。


そりゃああの金木犀の絵くらいおっきくないと認めてなんてあげないんだから。


これは私のエゴなんだ。


知らなかった? 私ヤンデレなんだよ。


ヤンデレはエゴで時空を越えるの。


そうして私はデザインするの。


あなたが幸せになれるような。


そんな素敵な未来をデザインするの。


あなたがデザインしてくれた、あのキンモクセイくんのように。


上手く呪ってあげるね。


また逢えたら…そーだなぁ。


その時はもしかしたらもう一度告白するかも。


あの病院横の公園に二人で出掛けて。


あの金木犀の花咲く場所で告白してさ。


好き。なんて言ってさ。


君は照れてそっぽ向いてさ。


うん、って一言呟いてさ。


そして二人で海を見に行くの。


なんてね。


嘘。


十五歳で死ぬし、そんな重荷は背負わせないよ。


だいたい君怪我なんてしないし。


安心だね。


大好きだったよ、柏木くん。


素敵な世界をありがとう。


あ、そうそう、知ってた? 君の描いた金木犀。あれ、銀木犀って言うんだよ?


私が聞いたら、だって白い方が似合うでしょって。


びっくりした。


この時空なのに、遠い遠い昔の思い出を描き出してくれたんだもん。


私の本当の気持ちを描き出しちゃうんだもん。


花言葉は初恋だよ。


しかし、君はエスパーかな?


いや、今日から君は未来人だ!


ごめんね。


素敵なデザインをありがとうね。


だから幸せになってね。ぜったいだから。


まあ不幸せならループするから。ふっふー。


私が定めた幸せ度数、超えるといいね。


何度でも頑張ってね。


何度でも戻してあげるから。


覚悟は…まあ無理だよね。ふふふ。


じゃあね。


さよならは言わないから。


また逢うしね。


でも代わりの言葉を君に送るよ。


あなたの大きな幸せを願って。


あなたの小さな幸せを呪って。


なんてね。


森田薫

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