コンセプトは皆無。@柏木裕介
病室に戻り外の景色を眺めながら、母の到着を待つ。
その間に改めて考える。
ここは、本当に夢じゃないのか。
骨折の痛みはしっかりある。もしかしたら交通事故で足が何かに挟まれている最中じゃないのか? だとしたら嬉しいんだが。
それと、もし仮にタイムリープだとして、果たして過去と同じ世界なのか。この僕の世界に現れるのは、本当に僕の知っている人達なんだろうか。
もしくは柏木裕介の歴史通りに倣わないといけないとか? 世界が滅ぶ的な?
だとしたら飛び降り骨折なんて、初手からミスってるし。
もし第三者が俯瞰して見てるのだとすれば裏をかけたのかもしれないが。
それとも僕自身が望んでこの悪夢みたいな過去をやり直したくて?
後悔で死ねないとか? ないない。
でも深層心理なんてわかんないしな…現に華の写真で吐くし。
とりあえずもうすぐ冬休みだ。
つーか休みって何するんだっけか。
まあとりあえず未来人なのは隠しながら生きよう。
僕はとりあえずそう決める。
本当は削いで削いで削ぎ倒してから一本のコンセプトにまとめたいが、心がタイムリープを認めてない。
心から出てくる訴求。
それを研ぎ澄ましカタチに落とし込む。
それがコンセプトで、デザインの真髄だ。
だから心が折れてからデザインしよう。
そうしよう。
うぅ、帰りたい。
母も気にはなるが、一度飲み込んで消化したしな…そりゃ生きてる姿は嬉しいが。
薄情と言われたらそれまでだが、世の中はありのままのカタチを見せる。それは残酷などではなく、普通のことなのだ。
僕だけが普通じゃないだけだ………って厨二か。言いたくないけど厨二か。いや中三か…
というか、冬休みもそうだけど、三学期ってどの学年の時もだいたい記憶薄いんだよな…なんでだろうか。
しかし、15年前の日常…というか僕か。どんな振る舞いだっけ。既に母と森田には昨日と違うって指摘されたしな…日常日常…
でも、15年前の日常に知るも知らないもないか。だいたいが忘れてるんだし。
ただ、交友関係は少ないし狭かった。母も何も言ってこない。
あ、部屋のピザゲロどうしよう!
くそ、後処理しないとかムズムズするな。
公共のトイレを汚くして去るやつとか死ねばいいのに。
すんません、母よ。それ僕のピザです。
でも言ってこないし、母は見てないのか?
うーむ。カピカピのピザは自分でも嫌だな…いや流動体よりマシか。お湯でしっかりと落としたいが、流石に退院するまでには母に見つかるか…ピザの処理すんません。
…? なんか…勢いよくバタバタと走ってるやつがいるな…急患か?
「裕くん!! 大丈夫?!」
違った。
僕のこの15歳の狭い世界に、その後の僕をデザインした凶悪な幼馴染がやってきた。
心、つまり心臓が締め付けられる。
冷や汗が一瞬でブワっと生まれた。
「…あ、ああ、だ、大丈夫だよ…は、は、華ちゃん」
「裕くん…?! ああ頭! 頭大丈夫?!」
酷い。
違う。
僕の顔色とか動悸とかで後遺症とか心配したんだろ。
擦れてんな、僕氏。
しかし、今の僕は当時の自分を上手くデザイン出来るのだろうか。
そもそもこいつ相手にする必要があるのだろうか。
あ! 記憶無いふりすればよかった!
ピンポイントで華だけ忘れるとか逆に良いじゃん! ぽいよ、ぽい! タイムリープぽいぽい!
はなちゃん、はにゃちゃん、ぱなちゃん、はなじゃん…母音…ああいあん…ああ、くそ! 何にも浮かばないしごまかせない…!
だがこれは心がタイムリープを認めてないからだ…!
決して僕にセンスないとか認めたくない!
いや、まあ無いんだけども。
必要もないんだけども。
30にもなればそれくらいはわかる。
でもこいつの前じゃ僕のセンスも何もないか。何の武器にもなりゃしない。
そう、僕は何の心構えもなく、15年ぶりに元幼馴染に再会したのだ。
ゲロ吐きそう。
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