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「通常、ある問題について考える時、そこには前提となる条件がいくつか存在する。今回の場合はマイロードである俺が異世界を創造できるということと、異世界創造の為には俺を殺す必要があるという辺りかな。そこに君たちは無意識に別の条件を付け加えていた訳だ」
「ああ、そうか」
「二つの異世界のうち、どちらかを選ばなければならない」
これはそのままトロッコ問題の構造とよく似ている。ただ犠牲となる対象が五人と一人ではなく、どちらの世界なのかというだけだ。
「これについては条件の一つに加えてもいいかも知れない。何故なら俺の能力が未知数だからだ。ただ、そこから導き出されるもう一つの条件についても必然的に前提となると、君たちは考えてしまっていた」
「自分たちの国か、信永たちの世界か。そのどちらかを選ばなければならない」
「その通りだ。けれどこれについてはよく考えてみれば、何も君たちの国がこちらの世界に存在してはならない、ということはない。何故なら転生により創造される異世界というのは転生する本人の意思と無意識により生まれる創造物でしかないからだ。俺が無意識に君たちの国がこの世界に存在しないと考えていないと、条件には入らない」
これについては直前まで俺自身もそう考えていた。いや、そういうアプローチがあることを見逃してしまっていた。問題を考える、特に現実の問題を考える際には想像もしない方向のアプローチにより問題が解決してしまうこともある。現実はトロッコ問題のように融通が利かない訳じゃない。学校のテストのように問題の解が予め与えられている訳でもない。解がなければ自分たちで作り出すこともできる。それが現実というものだ。
「本当に、そんなことができるというのか」
「今ここに、俺は君たちの国の一部を再現している。つまり、できるということだ」
「ここは、信永の世界なのか?」
「ああ」
大きく頷くと、俺はロゼリアを連れ、庭園の外へと出た。
そこには俺の家、つまり凰寺家の古い二階建てがあり、二階の窓から未央がこちらを見て手を振っていた。
「本当に、こんなものが」
「ただ、今の俺ができるのはまだこの程度だ。けれど、ロゼリア。君からお姉さんたちのことを聞けばもっと色々なものが再現できるようになるだろう」
「姉さまも……」
「できるんだろう? 俺がマイロードなら」
「そう、伺っております。信永さま」
後ろに控えていたエルザが静々と言った。
「だから君の話をもっと聞かせてくれないか、ロゼリア」
「私の話……」
「シルヴェリアの話も」
「姉さまの話……」
赤い瞳が、濡れていた。
「信永さまに任せておけば大丈夫です。何故なら、我々のマイロードですから」
笑顔でエルザが言うと、まだ涙の滲む顔で、それでも口を尖らせ、彼女はこう返した。
「我々ではなく、“わたしの”マイロードだろう? エルザにとっては」
「そ、そんなことはございません。ねえ、信永さま?」
何故かビルギットに睨まれた。それに二階からは未央が俺に冷たい目を投げていた。
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