第2話アリサが来た

「お前、何を知っている。答えろ」


 この盗賊団のガイルは領主騎士の顔をまっすぐと見た。

 手下二人が騎士領主を押えている。


「盗賊狩りのアリサが来る。知らないのか?どうせお前たちもアリサから逃げまくっているのだろう?違うか?」

 グサッ斧の柄の先で顔を突いた。鈍い音がした、領主の前歯が数本欠けた。


 図星だった。数か月前から、王国北部の辺境伯領を中心に次々と盗賊が狩られている。ここ数か月の出来事だ。


 戦争で傭兵団はお払い箱になった。行儀の良い傭兵団は貴族お抱えになったりもしたが、この傭兵団は、魔族ではなく、人間の村も襲ったので、誰にも噛みつく「狂犬」と忌み嫌われた。


 しかし、腕は立つので戦争中は重用された。大戦終了後は解散を命じられたが、戦争稼業が忘れられず戦争時の異名から「狂犬団」として盗賊として生計を立てた。


 そりゃ、俺だって、平和になった世で、盗賊団を続けられるとは思っていないさ。

 しかし、早すぎる。後、5~6年は稼げると思ったが、ここ数か月、狩られるペースが異常に速い。


 噂では一人の天才冒険者が盗賊を刈っている。詳しい情報はない。何せ。刈られた盗賊は鏖(ミナゴロシ)にあっているからな。


 王国北部の魔族領近くの村を襲いながら、東に向かい帝国領に逃げ込もうとしたが、思ったよりも騎士の対応が早い。こりゃ、西に向かった方が正解だったか?と後悔しても遅い。今は現状を何とかしなければな。


「おい、もっと、そのアリサについて話せ」ガイルが領主騎士の胸倉を掴むが、手下から報告が来た。


「頭~~馬車だ。馬車が来た。騎士爵の紋章がある。別動隊が領主一族を捕まえたみたいですぜ。ドンが御者をしていますぜ」


 馬車は、村の入り口から入り、ガイルの手前200~300メートル前で止まった。

「どう、どう、ここです。この村だ・・です」

 遠くからガイルの所までは聞こえないが、御者をしている男は、後ろを振り向きもせずに話していた。



「何・・・・あれ、10騎向かったはずなのに、騎馬がない。おい、ドン、他の奴らどうした。貴婦人を先に頂いちまったか?」

 と盗賊団の副団長が、御者台に座って馬を御していた仲間のドンにおどけて、大声を掛けた。


 先に、ガイルよりも先に領主夫人を陵辱したので、やっちまったと制裁を恐れている?

 こりゃ制裁を恐れて、他の奴は逃げ出したか?それとも馬車の中で宜しくやっているか?


 ガイルの側にいる副団長は懸案したが、なあに、ドンに限って大丈夫だろうさ。何か訳がある。新しい獲物でも見つけたのだろうとほくそ笑む。


「妻子には手を出すな」騎士領主は叫んだが、ガイルは興味を示さない。


 ・・・いやな予感だ。馬車を注視する。


 馬車の御者をしている組長のドンは別動隊の長だ。用心深く団の軍師も兼ねている。そいつが何かに怯えているようだ。


「なあ、俺、言うとおりにしたよな。したよな。案内したよな。助けてくれよ。なあ、頼むよ。だからパンやめて・・パンやめください」


「・・パンだめ?じゃあ・・パンパンパンね」


「い。いや~~~もっとだめ~~」


 ドンが叫び御者台から飛び降りるよりも先に

 パンパンパンと乾いた音が連発した。ドンは御者台から、マリオネットを無茶苦茶に乱暴に動かしたように動き。やがて糸の切れたマリオネットのようにぐったりして前方に吹っ飛び馬車から落ちた。確実に死んだ。

 

 馬車のドアから杖を持った。木と鉄でできた奇妙な魔法杖を携行している黒髪黒目の少女が顔を出した。


 少女は村を見渡しながら

「符丁?・・6・・・・報告・・・村、盗賊いた。これから駆除、する・・終わり」

 高価な、最新鋭な小型な魔道通信具に話ながら、ゆっくり馬車を降りた。


「おい、おい、あいつ一人で来たぜ。なめすぎた。これだからガキはよ。ちょっと魔法が使えるからって、調子に乗った粋がったメスだぜ!ドンが身を犠牲にして特大魔法を受けてくれた。あいつ、5分は魔法を使えないぜ。ぐったりしているはずだ。ドンの供養だ。一番乗りした奴があいつに一番乗りさせてやるぞ!」


「「ギャハハハハハ、それはいい」」


 ガイルは笑いながら大声で言った。正直不気味だ。しかし、戦場では士気を高めるためにわざと楽観的な態度を取らなければいけないときもあると経験で学んだ。心配は軍師ドンの仕事だがもういない。傭兵団の団長だったガイルは豪胆を装う。

 団員も、馬鹿になれない馬鹿はいない。


 この少女は杖を抱えながら、馬車から飛び降りた。


 次は、何をする?魔法の連発はできまい。詠唱をする時を見逃すな。盗賊たちは本能で臨戦態勢をとった。おのおの戦斧、槍、刀、弓を取り、対魔法用の方陣を取った。


 前方に甲を着た団員、後方に、投げやりや弓の飛び道具。対魔法盾があれば良かったが、そんなものはない。あの女との距離は目測で200メートルか?5分なら余裕だろう。また、仮に、魔法を放ても威力は弱いはず。2,3人の死傷者を出して終わり。その間に特攻すればいい。


 五名横一行で八列の陣。え~と全部で何人だ。三列目までが死んでも、・・何人残る?学校出てない俺は指の数しか数えられないが、まだ、沢山生き残るだろうとガイルは皮算用したが・・



「何だ。あいつ、座りやがった。小便か?」


 誰ともなく、品のない声で、少女をあおる。笑い声が響いた。


 少女は馬車を飛び降りると、素早く「膝撃ち」の体制をとった。


 魔法杖は、通常、悪素を取り込み、放出するために、高くあげるもの。


 少女は、右足の踝の上にお尻を載せて左足を立てている。左手で杖を支え、左膝に左手の肘を付けている。奇妙な構えで魔法杖の細い方を、盗賊に向けた。魔石などが埋め込まれているだろう太い方を肩にしっかり付けている。


 何もかもおかしい。



「おい、副団長、お前が指揮を取れ。やれるな。お前の成長を見たい。俺に力を見せてみろ」

「おうよ」

 ガイルは逃げ出す算段をした。もう王国では盗賊は終わりだ。こいつらを囮に逃げてやる。

 ヒュン~と光る何かが、がガイルのすぐ近くを通った。


「うん?・・閃光弾が・ずれている。風?右に2ミル修正・・・」


 最初の一発から、修正まで、3秒で次弾を発射した。


 ガイルの胸に7.62ミリ弾が着弾した。





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