世界を救う! 天才美少女! Dr.ラリルの金欠研究所!
すらなりとな
築XX年格安ボロアパート研究所から始まる世界救済
2XXX年!
人類は環境汚染やら温暖化やら核戦争やら、その他もろもろの自業自得のせいで、存亡の危機に瀕していた!
激変する環境の中で生まれ新生物「カイジュウ」が、じりじりと人類の生存圏を奪っていたのである!
そして今!
カイジュウ達に追い詰められた人類を救うべく、一人の少女が立ち上がった!
その名を!
天 才 ! 美 少 女 ! Dr. ラ リ ル !!
☆――――――――――
「……不安しかない」
そうつぶやくのは、対カイジュウ特別防衛隊(通称・特防)隊員、
「えっと、ココであってるよね……?」
手元の端末を何度も確認する。
間違いない。
この築XX年格安物件にしか見えないボロアパートこそが、今回の赴任先である。
(特防の秘密兵器を作ってるって話だったんだけどなぁ……)
対カイジュウ決戦兵器のテストパイロット。
ただし、テストだけでなく、デモンストレーションや実践も伴う。
それが、今回、亜依に与えられた任務である。
亜依自身は若輩の一兵卒でしかないものの、上官からは「今後の人類を担う大切な任務だ」と激励を受けている。
「ううん、大丈夫、大丈夫だよ!
きっと! 地下とか裏側とかに、でっかい基地が隠されてるんだ!」
漫画チックな光景を思い浮かべながら、年季の入った門をくぐる亜依!
その瞬間!
「あの、すいません」
警察官に呼び止められた!
「ああ、特防の方ですか。これは失礼しました。
不審な人物が何やらぶつぶつやっていると通報があったもので。
はい? ラリルさんですか? どういったご用件で?
えっ? 特別任務ですか?
騒音の苦情はありましたが、特防の方が出るほどとは……
はあ、そうじゃない? 新兵器?
まあ、確かにこのアパートの105号室にお住まいですが……」
☆――――――――――
「すいません! 特別防衛隊の者ですが!!」
八つ当たり気味に、ボロアパートのインターホンを鳴らす亜依。
しかし返事がない。
ドアに耳を当てると、何か重低音のようなものが聞こえる。
音楽でも聞いているのだろうか?
イラッときた亜依。
全力でドアをたたこうとし、
「おお、待っていたぞ!」
開いたドアに叩き潰された!
哀れ、カエルが潰されたような声が口から漏れる!
「うむ! このお約束な反応っ!
まさにキミこそ私が求めていた人材だっ!!」
扉を開いた張本人、小学校5年生くらいの少女は大喜び。
もういっそ警察に通報してやろうか!
いや、自分は腐っても国民の命を守る隊員!
子どものイタズラに本気を出す訳にもいかない。
無理矢理な笑顔を浮かべ、出来るだけ優しく問いかける。
「ごねんね~? ラリル博士はいるかな?」
「ん? ラリルは私だが?」
はい?
そんな間抜けな声とともに固まる亜依。
自称ラリル博士は、いよいよ楽しそうに笑った。
「対カイジュウ特別防衛隊、魚江亜依隊員だな?
我が研究所はキミを歓迎しよう!」
☆――――――――――
「さあ、好きに座ってくれ!」
「はぁ、お邪魔します?」
未だに疑問詞を語尾につけながら、部屋に入る。
六畳一間の真ん中にちゃぶ台という、もはや絶滅したかのような典型的アパートの一室。締め切ったカーテンにかび臭い空調の匂いが、なんとも言えない哀愁をただよわせている。もちろん、研究所的要素はどこにも無い。
「どうぞ」
「あ、ありがとう?」
出されたお茶に礼をいう亜依。
ラリル博士は、先程からまったく変わらない楽しげな笑みで続けた。
「改めて、私こそがラリル博士!
天 才 ! 美 少 女 ! Dr.ラ リ ル だ!!」
「はぁ」
気の抜けた返事を返しながら茶をすする亜依。
どうしよう、もう帰りたい。
「疑っているな? だが、自慢でも何でもないぞ!
対カイジュウ特別防衛隊が世界中のありとあらゆる天才の遺伝子を研究して作り出したのが私だ!
美少女なのは開発者の趣味だ!
そして! そ の 茶 は 私 の 培 養 液 だ !」
お茶を吹き出す亜依。
擬音語が聞こえてきそうな反応に、大笑いするラリル。
「冗談だ。
いやしかし、実に素晴らしい反応! まさに注文通り!
特防の税金泥棒どもも、たまにはまともな仕事をするじゃないか!」
「あの、ラリル博士? でいいんですよね? 何の為に、私を呼んだんですか?」
目の前の傍若無人な幼女に、あくまで冷静に返す亜依。
大人げない苛立ちが若干混ざっているのは気のせいだ。
「もちろん、ケチな愚民どものおかげで金欠になったせい……ではなく、最新鋭機のテストパイロットのためだ!」
おい今ちょっと何か言いかけただろう!
詰め寄る間もなく、ラリルは部屋のカーテンを開く!
広大な空き地の先には、何と巨大なロボットの姿が!
「対カイジュウ殲滅用人型戦闘機PX0――略してゼロ号!
キミにはこのテストパイロットをやってもらう!」
亜依は、今度こそ素直に驚いた。
目の前のロボットは、防衛隊の資料で見た開発中の新兵器だったからだ。
「びっくりしている暇はないぞ!
さあ、このパイロットスーツに着替えてくれ!」
☆――――――――――
機体の下に立てば、ゼロ号のカメラアイが亜依を捉える。
同時、膝をつくゼロ号。
胸部に触れれば、電子音が響く。
認証、完了。
空気が抜けるような音とともに、コクピットハッチが開いた。
乗り込む。
シートに腰を落ち着けると同時、ハッチが閉じていく。
閉ざされるコクピットに、浮かび上がるOS。
次いで、コクピットをぐるりと囲むモニターに、スクラップだらけの空き地が映し出された。
「聞こえるか魚江隊員?!
モニターに外の景色は映っているか?!」
小さなウィンドウに映し出される少女は、ラリル。
「はい! 聞こえます! 視界も良好です!」
「結構! では早速、駆動テストを行う!
内容はこの敷地の一周!
ゼロ号の操作方法はこちらから指示するから、しっかりと身に着けてくれ!」
「了解!」
「よろしい!
では、まず立ち上がって歩いてみよう。
モニターに操縦桿の動かし方が出るはずだから、それに従って動かしてみてくれ」
モニターの端に別のウィンドウが立ち上がり、操作方法が絵付きで示される。
それを横目に見ながら操作すると、わずかな駆動音を響かせながら、ゼロ号が動き始めた。
「動いた……! 魚江隊員! 振動はどうだ? コックピットの密閉性を上げているが、空気はどうだ? 苦しくないか? パイロットスーツはどうだ? 邪魔になってないか?」
「大丈夫です! 振動はほとんど感じません! 空気も息苦しさはないです! スーツも、サイズが少しキツイくらいです!」
始めて乗る機体にもかかわらず、矢継ぎ早に飛んでくる質問に答えながら、ゼロ号を操作する亜依。
このあたり、さすが選ばれた隊員というところだろうか。
亜依も、自分の高揚がはっきりと分かった。
そうそう、こういうのを求めていたんだ。
一応は上司にあたる博士がアレだったときは不安に感じたが、これならどうにかなりそう。
そんな思いを浮かべながら、訓練を続ける。
「よし! では、スクラップの間を進んでくれ。予めテスト用に組んだコースだ!
訓練用に敵を模したダミーも用意している!実践と思って操縦してくれ!」
「了解!」
スクラップの間を縫う様に進むゼロ号!
が、すぐにモニターは赤いALERTの文字が浮かる!
同時に、博士の声が響いた!
「アラートが出たな?!
それは敵性個体を検知すると出てくるものだ!
例え擬態で潜んでるカイジュウでも、ゼロ号の索敵からは逃れられん!
探してみてくれ!」
周囲に視線を巡らせ――見つけた!
スクラップに紛れるように、機械を寄せ集めて作った様なカイジュウが目を光らせている!
「視認しました!」
「よしっ! パイロットの目視確認まで0.5秒……悪くないぞ!
続いて攻撃テストに移る! 右下の辺りに武器統制画面が映っているな!?
まずはアイアンクローを選んでくれ!」
画面に浮かび上がった拳のアイコンに触れる!
瞬間、ゼロ号は敵に向かって跳躍!
敵をその拳で 打つ! 打つ! 撃つ!
哀れ殴り飛ばされたカイジュウ(のダミー)は吹き飛び、派手な爆発を起こした!
……あれ? 私、ボタンしか押してない?
「よし! よくやったぞ、魚江隊員!」
「……あの、なんか、ボタン押しただけで動いたんですけど?」
「それでいいんだ。
キミは歩くときにいちいち『足を上げて体重を移してそれから……』などと体に命令しているか? してないだろう? ゼロ号も同じだ。キミは状況を判断し、指示を出せばそれでいい。あとはプログラムがやってくれる!
それよりテストをつづけるぞ?
今のでもいいどう、じゃなかった、データが撮れたが、引き続き戦闘訓練だ!
もう少し先に別のダミーを用意したから、そちらに向かってくれ!」
そういうものなのだろか。
どこか釈然としないものを感じながらも、ゼロ号を歩かせる亜依。
すると、目の前に、先ほどと同じスクラップで出来たカイジュウが現れた!
「よし、次は射撃訓練だっ!
さっきと同じ様に、銃を選択してくれ!」
言われて、銃型のアイコンに触れる。
ゼロ号は鈍く輝く銃……ではなく放水機を構えた!
勢いよく吹き出す水に、哀れカイジュウ(という名のスクラップ)は吹き飛ばされ、バラバラに砕け散る!
輝く飛沫の中、放水機を掲げるゼロ号!
「いや! なんかかっこいいポーズとってますけどっ!
これ! 水鉄砲じゃないですか!?」
「それを言うな。 火薬をバンバン使えるような予算がないんだ。
ご町内の皆様のご厚意で譲ってもらった、壊れかけの放水機を修理するしかなかったんだ……」
哀れな声に何も言えなくなる亜依。
ゼロ号もどこか悲しげに放水機を下ろすと、再びコースを歩き始める。
が、すぐに足を止めた。
目の前には巨大な穴。
その向こうには、壊れた車。
戦車の上には、なぜかうさぎの縫いぐるみが。
「えーっと、博士? アレは?」
「ん? ああ、アクションと人命救助の訓練だな。
ゼロ号の跳躍ユニットを利用して、崖を飛び越えて、取り残された被害者を助け出すんだ。縫いぐるみは被害者の代わりだな。人を雇う余裕などないんだ……」
ラリルの言葉には勢いが無くなっているが、おそらくは最も重要な訓練である。
ゼロ号からも、コンソール越しに「飛び越えられる空間を確認。その先に救助対象を発見! 跳躍ユニットを使用しますか?」と、問いかけられている!
亜依はひとり気合いを入れると、ゼロ号を操作した!
腰を落とすゼロ号!
うなる脚部のシリンダー!
生まれた運動エネルギーをバネに、一気に飛び上がる!
空中で一回転を決め、優雅に着地!
そのまま救助対象(縫いぐるみ)の前で跪くと、背中からポットを取り出した!
開いたポットから伸びるアーム!
そっと救助対象(縫いぐるみ)を拾い上げると、中に収容!
そのまま、ロケットのごとく飛んでいった!
「ふはははは! 見たか!
アレこそがゼロ号最大の機能! 自動救助兼緊急脱出装置! 略して出口くん!」
あ然としている亜依に元気なラリルの声が響く。
もう復活したらしい。
「あの~、ラリル博士? あんな激しい方法で、救助者は無事なんでしょうか?」
「それをこれからキミ自身でテストするんだ!
――出口くん強制起動!!」
止める暇もない。
悲鳴とともに、コックピットごとゼロ号から放り出される亜依!
凄まじい勢いで流れてく光景!
そして身体にかかる凄まじいG――
(あれ? 言うほどでもない?)
――と、思いきや、身体に負担はほとんどない。
改めて周囲を見渡すと、モニターにはゼロ号の手足が合体して出来た様な飛行機が並走している。どうやら、ゼロ号は略して出口くんとやらをコクピットに、手足やパーツを引っ付けた様な構造になってるようだ。いわゆる合体変形ロボである。
なんという技術力!
言動はやや怪しいが、天才というのは間違いないのだろう。
(あれ? でも、どこに向かってるんだろ?)
が、ここで疑問。
ボロアパート研究所は飛んで行くほど距離はなかったはずだ。
その疑問はすぐに晴れる。
出口くんが静かに地上に着地、モニターに周囲の様子が映し出しされたからだ。
そこには、見慣れた基地と、拡声器を構える特別防衛隊隊長の姿が。
「アー、侵入者に告ぐ!
無駄な抵抗は止めて、大人しくポッドから出てきなさい!」
☆――――――――――
「何で脱出先が防衛隊基地なんですかっ!?」
ゼロ号の輸送を隊長にお願いし、新幹線と電車、バスに揺られて6時間。
ボロアパート研究所に戻ってきた亜依は、パソコンをいじるラリルに詰め寄った。
「それはもちろん予算を寄越さない堅物どもへの嫌がらせ……じゃなく、要救助者を保護する上で最も安全な施設だからだ。
ポッドとゼロ号を着陸させる広大な場所、医療設備。再出撃用の弾薬。
あらゆる意味で都合がいい」
「それって、防衛隊にいろいろ押し付けるって事ですよね!?」
「何を言う、正当な徴収だ! 予算が十分だったら、我が研究所でも医療研究ができたし、こうして動画を作る必要もなかった!」
「え? 動画? ていうか、何してるんです?」
先ほど以上に怪しい言動に、パソコンを覗き込む。
映っていたのは、某大手動画サイト!
流れるのは、ゼロ号と、コクピットの亜依の様子!
「ちょ、ちょ、ちょっと、何ですかこれ!」
「見てわからんのか? さっきの訓練を面白おかしい動画にして投稿したんだ」
「そうじゃなくて! なんでこんな事やってるんですか!」
「何度も言うようだが、我が研究所は常に金欠でな。
動画サイトで稼ぐ……じゃなかった、研究成果を一部公開することで資金を得ているんだ」
「どう見ても研究成果じゃないですよねっ!?」
「そう言うな。愚民どもには私の崇高な研究など理解できんのだ。
面白おかしい動画にしてやらんと、私の偉大さが分からんのだ。
証拠に見ろ! この再生数! コメント数!
これで放水機じゃなく、ちゃんとした銃火器を用意できる!」
確かに、再生実績はすごい。
コメントも途切れることなく流れ続けている。
それはもう、銃火器を用意できそうなくらいには。
新兵器というのは、それだけで様々なところから関心を買うのだろう。
しかし、
「ゼロ号カッコイイ」「なんだこの無駄なカッコよさ」
「それに対してなんだこのパイロット」「初めてなんだし仕方ないよ」
「パイロットスーツえろい」「もっとコクピット揺らせ!」
自分がネタにされているのはいただけない。
特に後半! 誰だ! 書き込んだヤツは?!
「もしかして、パイロットスーツがキツかったのも、ゼロ号が無駄にかっこいいポーズキメてたのも……」
「この動画のために決まってるだろう? いやあ、視聴者の反応も中々じゃないか」
「いいワケあるかぁっ!
勝手に私をネタにしないでください!
だいたい、自称美少女なら自分の動画にすればいいじゃないですか!」
「何をバカな。
私のようないたいけな少女目当てのロリペド野郎など客にする気はない。私は実況と、あとは、ゼロ号が本格的に壊れたり、不祥事が起こったりした時に泣きまくって同情を集めるのが役目だ。
それと、キミの使用については特防の偉い人に許可は取っている。
命令書にも『デモンストレーションも伴う』とあっただろう?」
デモンストレーションを拡大解釈しすぎじゃないだろうか?
普通なら抗議を続けるところだが、見た目が幼女なので、大人気なく詰め寄る訳にもいかない。
とりあえず、落ち着こう。
落ち着いて、子どものわがままに向き合うのだ。
「なんだ不満なのか?
なんなら、魚江隊員自ら編集してみるか?
動画出力はそっちのボタンを押せばできる。手元のPCで自由に編集可能だ。
ちなみに、出力・編集した動画は、商業利用でなければ自由に使ってもらって構わない。ただ、使う際は「世界を救う! スーパー美少女Dr.ラリルの金欠研究所!」を必ずつけてくれ。その他諸々の面倒なルールは規約参照だ。何か質問は?」
「動画利用規約」が差し出される。
必死に自分を抑えているところに、これである。
亜依は、何とか声を絞り出した。
「……美少女とか、金欠とかっていります?」
「何を言う。一番重要なところだろう?
それとも、とってもお綺麗で優秀でエリートな魚江隊員は汚れ仕事から逃げるか?
代わりに、特防のお仲間が私という人造マッドの生贄になるわけだが?」
ここで爆発しなかったのは、ふざけた態度の間に、ラリルの声が揺れるのを聞いたためだろうか。
深呼吸してから、亜依は、あえてヤケ気味な声を上げた。
「分かりました!
やります! やりますとも!
私も特防の一員ですから!!」
「うん、その意気だ!
次は実戦だから是非ともその気合いを忘れないでくれたまえ!」
☆――――――――――
実戦。
それは防衛隊隊員ならば必ず経験しなければならない、乗り越えるべき現実。
亜依も、いつか来るこの日を想像し、一種の奇妙な憧れを抱いたものだ。
それは、たとえ上司がちょっと不思議な博士に変わっても、仕事内容が少しばかり希望と違っていても、何一つ変わらない。
「よし、現場に着いたな?
今回の作戦目的はエリア内のカイジュウの殲滅だ!
分かっていると思うが、ただ殲滅すればいいというものでもない!
単調な殲滅は動画にしても稼げんからな!
出来るだけ派手に格好良くやってくれ!
その為のチェーンは施した!」
変わらないったら、変わらないのだ。
「了解! ゼロ号、人類の生息域奪還を開始します!」
「うむ! 頼むぞ!」
ヤケ気味に台本を読み上げて、ゼロ号を歩かせる。
すぐに表示されるアラート!
敵を視認!
続いて武器……と、武器を構えるポーズと撃破時のポーズを選択!
どうやら施したチェーンとやらはこれのようだ。
自分で動画映えする演出を作り出せと言うことなのだろう。
ヤケ気味にボタンを押す亜依!
動くゼロ号!
哀れカイジュウは新兵装、対カイジュウ用重マシンガンの餌食となった!
「次! 行きます!」
「うむ! どうしようもなくなったら緊急離脱だ!
死にまくるのもそれはそれで需要がある!
やらえる時も、できるだけ派手にやられてくれたまえ!
なに、ゲームオーバーになっても、私が公式会見で大泣きすれば済む話だ!」
何か言っている幼女を無視して殲滅!
ゼロ号で殲滅!
しっかり動画向けポーズを取っているあたり、亜依の妙な真面目さが現れている。
こんな真面目な隊員を食い物にしやがって! なんてヤツだ!
「おお、いいぞ! 慣れてきたな!
構えから撃破してフィニッシュまで! 綺麗につながればコンボだ!
ゼロ号もD~Sランクで評価してくれる!
ついでに私も誉めてやろう!」
画面の端に映るAとかSとかの横で実況をつづけるラリル博士を無視して、亜依は任務をつづけた。
――順調にゼロ号が進んでいきます! カイジュウの反応は……残り、70%!
鬱陶しい実況が聞こえてくるが、過去の思い出が、亜依をつき動かす!
――あと30%! もう少しです!
かつて、亜依が住んでいた町も、カイジュウに襲われたことがある。
――おおっ! ついにカイジュウを殲滅しました!
その時、特別防衛隊の隊長に助けてもらった。
――皆様! ありがとうございます!
いただいたご支援は新機能や新武装の開発に使わせていただきます!
……あ、魚江隊員? 新機能っていうのはゼロ号の新しいポーズだからな?
その隊長の姿を見て、
――さあ、今回から新しいエリアです! このエリアも奪還なるか!?
そして、カイジュウの被害で悲嘆にくれる人々を見て、
――おおっと! でかいのが出てきました! ここ一帯を支配しているボスです!
こいつを倒せばこのエリアは解放!
亜依は隊員に志願したのだ。
――ああっ! 負けてしまった! だが、脱出には成功しました!
――皆様! どうかご支援を!
今だって、やっていることは、志願した時に思い描いたものと変わらない!
――今度こそっ……! おっと、発狂モード! これはダメっぽいですね……
ですが、皆様! 私達は決してあきらめません!
例え、ゼロ号のかっこいいポーズという無駄なハンデを負ったとしても、
――試行76回目……! ああっと!?
パイロットは無事! 皆様! パイロットは無事です!!
例え、撃墜されるたびに、やけに明るいBGMと一緒に動画配信されたとしても!
――試行378回目!
今度は、自分がっ!
誰かを救う番だっ!
――! カイジュウの生命活動停止を確認!
――亜依っ!
☆――――――――――
「いや、本当に、よくやってくれた!
とりあえず、ここ周辺の安全は保障された!」
378回の挑戦の末、帰還した亜依を迎えたのは、珍しく年齢相応の喜びを見せるラリル博士だった。
PCには動画……ではなく、特別防衛隊の隊長が写っている。
「魚江隊員、任務完遂おめでとう。
画面越しで悪いけど、今回の功績は、上も高く評価しているわ。
近く、辞令も出されるでしょう」
かつて、あの町で助けてくれた時に見せた優しい笑顔とは違う、戦友に向ける笑みを浮かべる隊長。
泣きそうになったのは、亜依だけの秘密だ。
「今後のことだけど、道は二つあるわ。
ゼロ号も量産型の製造が決まったから、今度は正規パイロットとして防衛隊に戻る道がひとつ。それと、引き続きラリル博士の研究所でテストパイロットを務める方法がひとつ。
私は人事部じゃないけど、上官として、少しくらいは口添えができるわ。
希望があれば、聞くけど?」
「それじゃあ――」
☆――――――――――
「まさか、研究所に残る道を選ぶとは……
何がうれしくてこんな人造マッドと一緒にいたいと思ったんだ?」
隊長との通信を終え、開口一番のラリル。
「う~ん、やっぱり、ラリルちゃんの、そういうところかな?」
そのラリルに、気安い調子で応える亜依。
「おい、昇進が決まったみたいだが、まだまだ上司は私だからな!」
どこか嬉しそうなラリルに、亜依は続ける。
「分かってますよ。
で、次は何を作るんです? 噂の、ゼロ号の量産型ですか?」
「いや、それはすでに設計図を書き上げ、防衛隊に送っておいた。
データも十分だし、後は特別防衛隊の技術部の連中が何とかするだろう。
それより、私は未だカイジュウに荒らされたままのエリアを何とかしようと思っている。折角、キミが解放したエリアだ。安全を確保し、人類の手に戻したい」
「あれ? 意外にきちんと考えてたんだね?」
「当然だ! 私は天才だぞ! まずは、ゼロ号を土木建築用に改装だ!
汚染された土壌を耕し、人の住める土地にして、街を作って……
もちろん、資金は相変わらず稼ぐ必要があるから、今まで通り動画は頼むぞ?
ん? なんだその思ってたのと違うみたいな顔は?
心配はいらないぞ?
ある程度、街の開発が進めば、土地が足りなくなるに決まっている!
そしたら、またカイジュウの支配エリアを開放しに行くことになる!
私のシミュレーションがそう言っているんだから間違いない!
カイジュウから生存域を取り返して、街を作って、また取り戻して――
完全なサイクルだな!
私を作ったヤツは、私に兵器開発をやらせたかったようだが、そうはいかん!
やはり再生してこその救済だ!
そして、私こそが、世界を救う!
天 才 ! 美 少 女 ! Dr. ラ リ ル だ!!」
(完)
世界を救う! 天才美少女! Dr.ラリルの金欠研究所! すらなりとな @roulusu
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