第16話 二人目
スクールバックを抱きしめて、小動物のように丸まっている男子生徒に、海月はペットボトルを渡した。
「さっき買ってきた水だけど、よかったら」
「あぁ、どうも、ありがとうございます」
男子生徒は控えめに受け取る。
「俺達鯨丘組の青石入夏と水野海月っていいます。あなたは?」
「僕は、その二年の
名前とは正反対のおどおどしさに入夏と海月は驚いた。
「先輩はどうして絡まれていたんですか?あれはいつも?」
入夏が尋ねると、甚平は首を振った。
「実は、僕、事故で入院していて、今日まで学校に来ていなかったんです。今日来たら、なぜか所属していたイーグルはなくなっているし、生徒会への所属願提出日も過ぎていて、気づいたらあの人達に絡まれていました。イーグルにいた頃は、リーダーの鷲見先輩がいたから何もなかったんですけど」
涙目で語り始める甚平に二人は同情してしまう。あまりにも不運である。
「どこかに所属しないといけないなって思っているんですけど、どの派閥も癖が強くて、どうしようかなと。体験も終わっているから怖くて」
「じゃ、俺らの派閥に入ります?少なくともさっきの人達には絡まれないと思いますけど」
派閥に入っていないよりも鯨丘組でもいいから入っていれば絡まれることはない。甚平を不憫に思った入夏が提案すると、甚平の顔は明るくなった。
「いいんですか!」
「えぇ、うちでよければ」
涙目で嬉しそうな顔をされ、入夏は頷いた。
「よかったぁ、お二人共優しそうだし、安心しました」
「やった!これで三人!甚平先輩、よろしくお願いしますね!」
海月が甚平の手を握ると、甚平は微笑んだ。
「はい、よろしくお願いします。ちゃんと自己紹介とかした方がいいですかね?僕、あまり仲間とかいないので、何を話せばいいか分かりませんが、僕は演劇が好きで、それで」
「甚平先輩、ゆっくり聞きますから、そんなに焦んなくても大丈夫です。時間はたくさんあるんですから。それに敬語なんてよしてください、先輩なんですから」
焦ったようにマシンガントークを始める甚平に入夏は苦笑した。
翌日の昼休み、入夏は海月、そして甚平と共に中庭で鯨丘組会議を開いていた。
「入夏くーん」
どのように派閥メンバーを増やすか話し合っていると、昨日の四人組を引きずった檜と朴人が現れた。
「え、どういうこと」
入夏は四人の顔色を見て顔を引きつらせた。真っ青なんてレベルじゃないほど顔色が悪い。
「いやね、何や朝からおどおどしいというか、僕らの顔色を窺っているなぁって思って、さっき問い詰めてみたんよ。おかしいと思うやん、二年のくせに僕らの周りにおったら。そんで吐かせてみたらそこにおる先輩に寄って集って悪さしたって言うんやもん。それで謝罪をしに来たんや」
檜は四人を入夏達に突き出す。
「檜の顔に泥を塗るような恥ずかしいことはするなって教えたはずやろ。ちゃんと謝り」
朴人に言われて四人は周りの目も気にせず土下座した。
「「「「申し訳ありませんでした!」」」」
「ごめんなぁ、入夏くん。君の派閥の人間にちょっかいを出してしまって。先輩もすみませんでした」
「い、いえ!大丈夫です!はい!」
「青石入夏」
黙って四人を引きずっていた檜が口を開く。
「昨日は悪かった。今月の水やりはうちがやる」
それだけ言って檜は四人と共に中庭から去って行った。
「あの四人は、とりあえずまだ翌檜に置いておく予定やけど、君達には近づけさせへんから」
「それは、ありがたいかな。それよりも、吐かせたってまさか」
「いやいや、暴力は振るってへんよ?僕が問い詰めて、四人の後ろに檜を立たせただけや。殺気全開にさせたから、すぐに吐いたわ」
ヘラヘラと笑いながら恐ろしいことを言う朴人に甚平と海月は互いを抱きしめ合う。
「それより入夏くん聞いた?今日の放課後、派閥リーダー会議があるってこと」
「あぁ、前に生徒会長から聞いたけど」
派閥リーダー会議とはリーダーに課された課題が発表させる集会である。派閥リーダー会議の内容は内密なため、リーダー一人で行かなければならない。そのため、その日の派閥活動はナンバー2が仕切るか休みになることが多い。
「その場所は聞いた?」
「いや、後で連絡するって言っていたよ。でも、連絡がこないから、赤羽に聞こうかと」
「やっぱり入夏くんも知らんか。檜もわからんらしいのよ。派閥リーダー会議なんて初めてやから、僕らも場所については検討がつかへんねん」
「じゃあ、赤羽も知らないのかな」
「そうやないかな。困ったなぁ」
「派閥リーダー会議の場所なら放課後に放送されるよ」
「え!それ本当ですか!?」
思いもよらない情報提供に入夏は甚平を見た。同時に朴人も甚平を見ていたので、甚平はおどおどしたように頷いた。
「う、うん。派閥リーダー会議の場所を事前に教えておくと、派閥同士の喧嘩があった時に罠とかが仕掛けられると危ないから当日放送に決定したんだ。二、三年生の生徒なら知っていると思う」
「えー、じゃあ、翌檜の二、三年生に聞いておけばよかったんか。ていうか、生徒会はそんなこと言わへんかったぞ!」
「俺も」
「でも、わかってよかったわ。先輩、ありがとうございます。じゃ、入夏くん、放課後は檜をよろしくね」
「はい、じゃあ、また」
手を振りながら離れていく朴人を見送りながら、甚平は尊敬するような眼差しで入夏を見た。
「入夏くん、凄いね。臆さずあの二人と会話ができるなんて」
「いや、俺も怖いですよ」
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