第14話 一人目
翌日、入夏は校門で身体をうずうずさせて待っていた海月に捕まり、生徒会室まで連れて行かれていた。生徒会室前には大勢の生徒がいる。
「何の騒ぎだ?」
「いいから一番前に行って見て来いって」
海月に背中を押されて、入夏は大勢の生徒達に押されながら前に進んだ。
「これは」
最前列に行くと、一枚の紙が貼られていた。
『新派閥 「鯨丘組」 リーダー:青石入夏 認』
入夏の派閥結成許可願が生徒会に受理されたのだ。
「やぁ、青石入夏くん」
入夏が派閥を作れた実感に浸って張り紙を見つめていると生徒会室から三人の男女が出てきた。
「えっと」
「私は生徒会長の
ショートヘアーの凛々しい女子生徒が爽やかに笑う。
「広報とイベント進行担当、二年の
象の帽子を被った男子生徒が眠そうに手を振った。
「書記と会計の
最後に髪を二つに結った女子生徒が控えめに微笑む。
「派閥結成おめでとう。四つ目の派閥としてぜひ精進してほしい。さぁ、生徒会室へどうぞ。派閥に関する話をしよう」
「こちらでぇす」
朝陽に腕を掴まれ、入夏はざわつく生徒達を無視して生徒会室に連れて行かれた。
今朝の事があり、入夏は注目の的だった。四つ目の派閥のリーダーであるから仕方ないのだが、その視線は良いものではなかった。入夏は虎鉄のように大柄で、兄貴のような存在でもない。ぼたんのように美しく、気高さもない。だからといって檜のような危険な魅力もない。つまり、どうして一般生徒中の一般生徒のような見た目であり、実際つい最近までそんな存在だった入夏がリーダーなのかと疑問に思う視線なのだ。
「メンバー、どうしよう」
入夏は頭を抱える。今の時点で、派閥に属していない生徒を見つけるのは至難の業だ。もしかしたら、いないのかもしれないのだ。そうなると、せっかくの派閥も入夏だけになってしまう。
「入夏、ちょっといいか」
真剣な面持ちで現れた海月に、入夏は戸惑いながらも頷いた。
海月に連れられたのは中庭だった。
「これ」
海月が一枚の折られた紙を入夏に渡す。
「なにこれ?」
入夏は紙を広げる。それは所属願だった。そこには鯨丘組の名前と海月の名前が書かれている。
「実は、ずっと考えていて、赤羽さんに言ってみたんだ。俺、友達の、入夏の夢を応援して、サポートしたい。だから、赤虎団を抜けたいって」
「お前、そんなことして大丈夫だったのか?」
虎鉄の人の良さを入夏は理解しているが、それは友人としての虎鉄であり、派閥のリーダーである虎鉄ではない。一度所属した派閥からこんなにも短時間で抜けるというのは、許されたことではないだろう。
「俺も、殴られる、最悪入院まで覚悟に入れて言ったよ。でも、赤羽さんは許してくれた。条件付きで」
「条件?」
「派閥を抜けたからには、その決断に、新しく所属する派閥のリーダーに恥じない行動をとること。それから」
「それから?」
「三ヵ月の赤虎団の部屋掃除」
「・・・・そっか」
入夏は嬉しそうに笑った。
「ありがとう、海月」
「俺、所属してもいいか?」
「勿論さ。嬉しいよ」
「そっか、よかった」
「せっかく海月が入ってくれたんだから自信をもたないとな」
入夏はズボンのポケットから鯨のボールペンを取り出して、胸ポケットに差した。金の鯨が入夏の胸ポケットで光る。自分の派閥ができた時に、鯨丘組のリーダーだとすぐにわかるように胸ポケットに差すと決めてズボンのポケットに忍ばせていたのだが、自信のなさからか、踏み切れずにいたのだ。
「胸ポケットに金の鯨、これが俺のリーダーマークみたいなもんかな。これからはずっとここにコイツがいる」
入夏は胸ポケットを指さした。
「かっこいいじゃん!流石リーダー!」
そんな入夏に海月は目を輝かせた。
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