第12話 正直どうでもいい

 ピオニーの部屋、別名絶勝学園の花園は翌檜とは別の意味で入りにくかった。廊下まで聞こえる声は勇ましい乙女達の声と僅かな男子生徒の声である。果たして入夏はぼたんと話すことができるのだろうか。彼女を崇拝している女子生徒達に阻まれたりしないだろうか。入夏は様々な不安を抱きながら、ピオニーの部屋をノックした。

「誰だ」

 中から出てきたのは菫である。

「青石入夏と言います。リーダーの桃里ぼたんに話があってきました」

「ぼたんさんに?」

 菫の顔は険しい。すると、彼女の背後から美しい男、椿つばき麗夜れいやが興奮気味に出てきた。

「貴様のような極めて普通と言える容姿の男が我がリーダーのぼたん様と何を話すというのだ!」

「いや、そういわれても」

「ぼたん様と話したいなら、まずは俺を倒すことだな!」

「そんな」

「やめないか!」

 奥から竹刀を持ったぼたんが出てくる。

「話は聞いている。貴方達、外でランニングでもしてきてちょうだい。菫、椿、二人もだ」

「ですが、ぼたんさん」

「どうしてこの男の話なんか」

「私に逆らうのか?」

 ぼたんに睨まれて菫と椿は黙った。

「わかりました。よし、行くぞ!」

 菫の号令にピオニーの生徒達は部屋から出て行く。椿だけはこれでもかと言うくらいに入夏を睨んでから出て行った。

「さぁ、ここに座れ」

 ぼたんに促され、入夏はぼたんと向き合う形で座った。

「赤羽から話は聞いている。新しい派閥を作りたいのだな?」

「はい、そうです」

「理由は?」

「憧れを憧れのままにしないためです」

「派閥の名前は?」

「鯨丘組としています」

「そこに属せばどうなる?」

「新しいサイキョウを見せることができると思います」

 ぼたんの睨むような、何かを見抜こうとしているような視線に耐えながら、入夏は言葉を止めずに答える。

「新しいサイキョウ?」

「俺は正直に言って喧嘩は強くありません。でも、サイキョウを目指すからには俺の強みを見つけ、俺らしいやり方で校長を倒したいと思っています。俺は生徒を強くするのではなく、生徒と共に強くなりたいと思っています」

「それはリーダーとしてはどうなのだ?」

「確かに威厳はありません。しかし、甘いことだと考えられるかもしれませんが、仲は深まり、チームワークには優れるのではないかと思います」

 入夏は冷や汗をかきながら答えた。どれも嘘ではないが、こんなことを聞かれたことはなかったので、自分はこんな風に思っているのだと、このタイミングで入夏は自覚した。

「なるほど。それは確かに色が違うな」

「もし、認めてもらえるのであれば、ここに記入をお願いします」

 入夏は派閥結成許可願をぼたんに渡す。ぼたんはそれを受け取り、目を通した。

「紫崎の許可を得たというのは本当だったのだな」

「はい」

「正直どうでもいいというのが私の答えだ。派閥が増えようが、機能していないとわかれば、即刻消せばいいことだから」

 ぼたんはもう一度鋭い視線で入夏を見た。

「もし、鯨丘組が機能していなく、貴方の覚悟が中途半端だと分かった時、いくら弱かろうとサイキョウを目指すには邪魔にすぎない。そう判断した時は強制的にでも決闘し、私は鯨丘組を潰す。それでもいいのなら、許可をしよう」

「・・・・はい、大丈夫です。そう判断されないように精進していきます」

「じゃあ、青石入夏。貴方の覚悟を見せてもらおうかな」

 ぼたんは派閥結成許可願に派閥名と氏名を記入した。

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