第9話 鯨丘組

 翌日、入夏は海月に思いっきり肩を掴まれては揺すられた。

「正気か!?どこにも所属しないなんて!何かあったらどうするんだよ!」

「いや、まぁ、そうなんだけど」

「だから昨日めっちゃ探したのに!どの派閥体験も浮かない感じだったから、もしかして所属しない気じゃないかって」

「悪い」

「・・・・・・まぁ、入夏がいいならいいけど・・・」

「海月は?どこにしたの?」

「赤虎団。あそこが一番よかった」

「そっか、いいよな」

「だろ?」

「おぉ!入夏ではないか!おはよう!」

「おはよう、赤羽」

「おはようございます」

「おはようございます、灰尾さん」

「入夏さん、僕も虎鉄のように接してくれて大丈夫ですよ。名前も灰尾か簾で構いません」

「じゃ、灰尾で」

「はい、よろしくお願い致します」

「ちょっとおい!入夏!どういうことだよ!」

 海月が驚いた表情で入夏の腕を掴む。

「む?友達か?」

「水野海月。うちに所属していますよ」

 簾が答える。

「そうか!それは嬉しいな!」

「えーと、赤羽さんと灰尾さんは入夏とはどういったご関係で?」

「友達になったのだ!」

「まぁ、そんな感じです」

「えぇ!?入夏、いつの間に!」

「昨日、赤羽が俺の夢を応援してくれて、そこから」

「ゆ、夢?俺、知らないけど」

「うん、言ってなかった。ごめん」

 入夏はきちんと海月に向き合った。

「俺、派閥を作ることにした」

「えぇぇえええええ!」



 目の前で弁当を広げる海月は口を尖らせている。

「水臭いじゃないか。俺だって応援したのに」

 といった感じでブツブツと入夏に文句を言っているのだ。

「悪かったって。ありがとうな」

「うぅー、あー、もう、わかった、許す」

 複雑そうだが、自ら作ったこの空気に耐えられなくなったのか海月は勢いよく白飯をかき込んだ。

「で?派閥名は何なんだよ?」

鯨丘組くじらおかぐみ

「なぜに?」

「俺の名前、入夏だろ?海洋生物で考えたらやっぱり目指すは大きな鯨。そんで丘はさっき話した海丘組から貰った」

「・・・・・・ほぉー、いいじゃん」

「何だよ、その間は」

「いや、別に意味なし」

「そうか?」

「そうだ」

「ふーん。まぁ、名前が決まったから、ここからが本番だ」

「あー、どっちから会いに行くの?ついて行こうか?」

「大丈夫だ。俺一人で行ってくる」

「そっか、何か手伝えることがあれば言ってくれよ」

「お前、仮にも赤虎団の一員だろ?」

「まぁ、そうだけどさ。心配なんだもん」

 海月の心配そうな視線に入夏は大丈夫だと笑って見せた。

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