第7話 海丘組

 小学校四年生の頃だったと入夏は記憶している。入夏という名前の珍しさからか、周りより小さかったせいか、母親がいなかったせいか、入夏は高学年に目を付けられていた。荷物を持たされたり、物を隠されたりした。酷い時は殴られたり、蹴られたりした。

 その日は酷い時だった。夕暮れ時の公園で数人の男子が入夏を囲んで殴ったり、蹴ったりしているのだ。入夏は丸まって只々それを耐え抜いていた。

「やめないか!みっともない!」

 突然、力強い声が公園に響いた。入夏が顔を上げると、学ランを着た逞しい男子高校生が立っていた。顔や手には手当てをした形跡があり、どう考えても喧嘩帰りのヤンキーだった。

「一人の人間に複数人で暴力行為をするなど情けない!お前達、喧嘩をするならもっと正々堂々と喧嘩しろ!」

 男子高校生が一喝すると、いじめっ子たちは逃げて行った。

「大丈夫か?」

 大きな手を差し出され、入夏は目を輝かせて男子高校生の手を掴んだ。

「お兄ちゃん、ヒーローみたいだね」

 入夏を立たせ、服の汚れをとっている男子高校生が聞き返す。

「ヒーロー?」

「うん」

「そうかぁ?」

「うん!」

 入夏が笑顔で答えると、男子高校生は照れたように入夏の頭を撫でた。

「ま、ヒーローになってやろう!でも、俺はヒーローではなく、サイキョウになりたいのだ」

「サイキョウ?」

「あぁ!サイキョウだ!」

「強いってことでしょ?どうやってなるの?」

「簡単だ!絶勝学園第一高等学校に入学すればいい!」

「ぜっしょ?」

「絶勝学園第一高等学校だ!」

「ぜっしょーがくえんだいいちこうとうがっこう?」

「そうだ!」

「そこに行けば、俺も強くなれる?」

「あぁ、なれるぞ!」

「俺もそこに行こうかな」

「少年、君は強くなりたいのか?」

「うん」

「それならば、入学したら派閥のリーダーになるといい!」

「リーダー?」

「そうさ!リーダーこそ学園で最もサイキョウの生徒に近いのさ!」

「お兄ちゃんはリーダー?」

「そうだぞ!我が海丘組かいきゅうぐみは強いぞ!」

 男子高校生は目を輝かせて入夏の肩を掴んだ。

「少年!もし、俺と同じ高校に来るのであれば、楽しみにしているぞ!俺は一足早くサイキョウになっているがな!」

 男子高校生はそう笑うと、もう一度入夏の頭を撫でた。

「うん!俺、行くよ!」

「そうか!頑張れよ!じゃあな!」

 大きな後ろ姿に、入夏は初めて憧れを抱いた。

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