第6話 友として

 あれから数日、生徒会への所属願提出最終日になってしまった。本日中に所属願を出さなければ面倒なことになる。昼休み、入夏は中庭から外れた木の下に座っていた。手に持つ所属願には『赤虎団』と書いてある。散々悩み、入るとしたら赤虎団しかないと判断したのだ。三つの派閥が形成されて約一週間、それぞれの派閥に色が出てきた。圧倒的女子生徒人気はピオニーだ。強く気高く、そして美しい桃里ぼたんに惚れた女子生徒がぼたんのようになりたいと志願している。自由主義、噂では誰の下にもつきたくないから派閥を作ったという不気味な紫崎檜は一部の生徒にはその危険な魅力で人気らしい。また、唯一の放任主義派閥ということも魅力のようだ。赤虎団は熱血で真面目、豪快な赤羽虎鉄の漢気に惚れた男子生徒が多い。入夏は漢気に惚れたわけではないか、美しさと不気味さの派閥に比べたらマシだと考えたのだ。

「君!そんなところに座って気分でも悪いのか?」

 頭上から聞こえる声に反応し、顔を上げれば赤羽虎鉄が立っていた。

「気分が悪いのか?」

「い、いや、そうではないです」

「そうか?それならいいのだが・・・・む?」

 虎鉄が入夏の持つ所属願に気づいた。

「ふむ、君はまだ派閥には属していないのだな!どうだ?我が赤虎団に入らないか?」

「あー、そのつもりです、一応」

 入夏は所属願を虎鉄に見せた。

「おぉ!それは嬉しい!・・・・・む?」

「あの、何か?」

 虎鉄は黙って入夏の顔を見ている。そして、隣にドカッと座った。

「あのー」

「君、名前は?」

「青石入夏です」

「そうか、入夏。まず、同じ一年生なのだから敬語で話すのはやめようではないか」

「あ、あぁ、わかった」

「よし、では入夏」

「な、なに?」

「何を迷っているのだ?」

「えっ」

「赤虎団に入ってくれるのは嬉しいことだ。しかし、その顔に迷いが見えるぞ」

「・・・・・・まぁ」

「俺で良かったら話を聞くぞ」

「え、でも」

 入夏は気まずそうに目を逸らした。今まで考えていたことを、派閥リーダーである虎鉄に話すには少々、いやかなり戸惑いがあった。

「では、こうしよう」

「なに」

「俺と入夏、俺らは今日から友達だ。だから、友達に話してみろ」

「えーと」

「赤虎団のリーダーとして話を聞くのではない。友として聞くのだ。これなら言いやすいだろう?」

 邪気のない、純粋な笑顔でそう言われ、入夏の心が揺らぐ。

「・・・・・話したら、殴られるとかない?」

「あるわけないだろう!俺は友人にそんなことはしない!」

「そもそも、どうして俺なんかにそんなに親身になってくれるんだ?」

「だって、同輩じゃないか!俺は校長を倒したいが、学校を楽しく過ごしたいとも思っている」

「・・・そっか」

 彼が人気の理由が、彼についていきたいと思う生徒の気持ちが入夏はこの時少しわかったような気がした。

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