第5話 強制イベント
三つの派閥体験を終えた翌日の休み時間、入夏はどの派閥に入るか、またどの派閥にも入らないことにするか、悩んでいた。まだ体験が始まって三日しか経過していないのに、既に半分以上の生徒が派閥に所属願を出している。なぜなら、早く所属願を出さなければ面倒なことになるからだ。
「入夏!」
「どうしたんだ?」
「中庭で凄いことが起こっているぞ!」
海月は入夏を無理矢理立たせて、中庭を覗ける窓まで引っ張る。そこには元リベスのリーダー、谷すぐりとバットを持った、虎鉄ほどではない大柄な男子生徒がいた。
「よぉ、一年生に負けた元リベスのすぐりちゃんよぉ」
「僕に何か用かい?」
「これだよ」
男子生徒は果たし状をすぐりに投げつけた。
「去年はやられたが、今日はやられないぞ?一年生に負けたということは、相当怠けていたから身体が鈍ったんだろ?そんな野郎なら俺にだって勝ち目がある」
「あぁ、名前を見て思い出したよ。僕に決闘を挑んであっさり負けた見た目だけ筋肉君か」
「んな名前じゃねぇよ!馬鹿にしやがって!」
「いいよ、引き受けてあげる」
すぐりは鞭を構えた。
「うおぉぉぉぉ!」
勇ましい声と共に男子生徒はバットを振り上げながらすぐりに向かって走る。
「いっ!」
その瞬間、男子生徒のバットを持っていた手が弾かれた。男子生徒はバットを手放してしまう。
「しまった!」
「バット、拾わせてなんかあげないから」
すぐりの鞭が男子生徒の身体に当たる。すぐりは攻撃を続けながら男子生徒に近づいた。ひたすら鞭を当てられた男子生徒は既にもう立てない。僅かに見える手や足首には蚯蚓腫れがある。すぐりはボロボロなった男子生徒を見て、ニヤリと笑みを浮かべた。
「君が僕に勝てるわけがないでしょ?わかったら、これ以上構わないでくれる?僕は忙しいんだ」
すぐりはそう言って男子生徒に背を向けた。
「いやぁ、流石ですね、先輩!そのいたぶるような戦闘スタイル、噂通りのSって感じですわ」
傍観していた生徒の中から朴人が人懐っこい笑顔を浮かべてすぐりに近づいた。
「何か用?」
「先輩、まだ派閥決めてないんでしょ?うちとかどうです?先輩のような戦闘スタイルって、今ある派閥の中ではうちが一番相性いい気がするんですけど」
「勧誘ってことね」
「まぁ、そんなもんですね。スカウトの方がかっこいい?」
「嫌だ。僕は紫崎檜の下につきたいんじゃない。紫崎檜を倒したいからな」
「ちぇー、残念」
「じゃ、失礼」
「はーい」
ここまでの流れを見て、入夏は冷や汗をかく。派閥に入ることは強制じゃない。しかし、入らないとこうやって喧嘩を吹っ掛けられたり、派閥の幹部直々の勧誘が来たりなど強制イベントが始まるのだ。もし、どれかの派閥に属していたら、勧誘は勿論の事、喧嘩を申し込む生徒もいない。喧嘩を申し込んで、派閥に属す生徒を倒せばリーダー直々に果たし状を持って、半ば強制的に決闘をすることになってしまう。そんな恐ろしいことをしようとする生徒はいない。だからこそ、リーダーは強くなくてはならないのだ。
「あっ、赤虎団の赤羽虎鉄だ」
海月の声に入夏は頭の中から現実世界に戻った。
「君!バットは少々俺好みではないが、なかなか良い筋肉だぞ!我が赤虎団に入らないか?あの男に勝てるように強くしてやるぞ!」
虎鉄は男子生徒の腕を掴んで立たせる。
「・・・・俺を強くさせてくれんのか?」
「勿論!覚悟があれば誰でも大歓迎だ」
「・・・・・わかった。俺、赤虎団に入る」
「では、こちらの所属願を書いて提出してください。歓迎しますよ」
どこから現れたのか、簾が所属願を男子生徒に渡している。
「俺らも早く所属願を出さないとな」
「・・・・うん」
入夏は気の抜けた返事しかできなかった。
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