第2話 大騒ぎ
自己紹介、学校説明などを終え、入夏は海月と共に昇降口にいた。上履きと靴を取り換えていると、昇降口前に生徒が集まっている。
「なんだろ?見に行こう」
海月に連れられて、入夏は器用に人の間を縫うように移動し、最前列までたどり着いた。生徒達に囲まれていたのはタレ目がセクシーな男と入学式だというのに学ランの下にパーカーを着た猫背のひょろ長い男だった。
「これ渡して、アンタが許せば俺と勝負してくれるんだろ?」
ひょろ長い男は細長い指で紙を取り出した。そして、タレ目の男に投げる。
「へぇ、果たし状か。君、僕に勝てるつもりなの?」
タレ目の男は妖艶に微笑んだ。しかし、妖艶な微笑みの裏から感じる殺気のせいで誰も見惚れることはなかった。圧倒的に強いオーラが漂っている。対するひょろ長い男からは何故か何も感じられなかった。
「なぁ、海月、あの人らは誰?」
「背の高い奴はわかんないけど、もう一人はリベスのリーダー、谷すぐり先輩だよ。でも、あの背の高い奴は誰だろ・・・新入生か?そういや新入生にバカでかい奴いたような、そうだよ、いたわ。思い出した」
海月は顎に手を当ててブツブツ言いながら、ひょろ長い男を見た。
「入学初日に僕に挑もうなんて、大人しそうに見えてやるねぇ、
果たし状を読んだすぐりは鞭を取り出した。
「いいよ、君の挑戦を受けてあげる。泣いてもやめてなんかあげないから」
すぐりの笑みに返しもせず、檜はポケットから鉄パイプを取り出して組み立て始めた。
「鉄パイプか。珍しい武器だね」
檜は答えない。
「ねぇ、無視とか酷いんじゃない?僕、先輩だけど」
「別に意味ないから」
「そう、生意気だな。じゃあ、手加減しないよ」
すぐりが鞭を振るった。長い鞭は檜をしっかり狙っている。
「別にいい、俺が勝つから」
檜はすぐりの鞭を避ける。鞭よりも檜の方が速かった。檜は鉄パイプを握りしめて一気にすぐりとの間を詰める。すぐりは後ろに大きく下がって、もう一度鞭を振るうが檜には当たらない。檜は身を屈めて、鉄パイプをすぐりの胴体目がけて振り当てた。
「うぅっ!」
すぐりはそのまま校門の方へ吹っ飛ぶ。門に身体を強打したすぐりはそのまま動かなくなった。たった一発で、あの殺気を放っていたすぐりはやられてしまった。見ていた生徒全員が呆気にとられる。
「いやぁ、お疲れさん!檜!」
吹っ飛んだすぐりの方を見もせずにただただ地面を見つめていた檜の肩を、檜と同じような格好をした陽気そうなマッシュルームヘアの男が叩いた。
「これで檜の派閥が作れるで、やったな」
「帰る」
檜は鉄パイプを持ったまま校門の方へ歩いて行った。マッシュルーム男はスクールバックを二つ持って檜の後を追う。
「おう!なぁなぁ、派閥名とか何にするの?僕、決めていい?」
「好きにしていい」
二人の背中を見送った生徒達が呆然とする中、リベス所属の生徒達は倒れたすぐりの方へ走って行った。
「なぁ、あの先輩って強いよな?」
「そりゃ強いさ!噂じゃ、二年生になってすぐリーダーを倒してリベスを作ったんだから。あの殺気、鞭のスピード、尋常じゃなかっただろ?あの檜とかいう奴、何者なんだ?」
海月は腕を組んで考えだす。入夏はもう誰もいない校門を見た。これからの高校生活が普通ではないことを、実をもって体感した。
翌日、高校が騒がしくなっていた。入夏が登校した時には既に二年生や三年生が一年生の教室に集まっていた。
「入夏!」
「海月、何の騒ぎだ?」
「昨日、すぐり先輩が檜っていう男にやられただろ?」
「うん」
「あれからまだ学校に残っていた奴から聞いたんだけど、実は中庭でも同じようなことが起こったらしくて、カメリアの
海月は入夏の腕を掴んだ。そして、一点を指さす。
「ほら、あの子が椿先輩を倒したんだ」
海月が指さす方向には裾の長いセーラー服を着て、本を読んでいる可愛らしい少女がいた。
「女の子じゃないか。しかも小柄だし。椿先輩は男だろ?」
「そうなんだよ、あの小柄な体型で勝ったんだ。名前は
「凄いな・・・確かに昨日の奴より雰囲気は強そうだけど」
「それで、次はこっち」
海月は入夏を引っ張り、別の教室に連れて行く。
「あそこで豪快に弁当を食べているのが鷲見先輩を倒した
虎鉄は如何にも強そうな見た目だった。学ラン姿の大柄で筋肉が凄く、拳で喧嘩するということが納得できる。
「学校中大騒ぎだ。何て言ったって、たった二日で今まであった派閥が全て潰れて、新しいリーダーは全員一年生なんだから。これは今日の派閥説明会は混むぞ。あ、場所取りは任せろ。また、体育館で。じゃあな」
「あぁ、ありがとう」
興奮気味のせいか早口で話す海月に肩を叩かれた入夏は気の抜けた返事しかできなかった。
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