サイキョウ

小林六話

イルカの決断編

第1話 絶勝学園第一高等学校

 あの日、頭に乗せられた逞しく大きな手を、それが何であったとしても、きっと忘れない。これからも。



 絶勝ぜっしょう学園第一高等学校は全国から受験者が集まり、メディアにも注目されて度々取り上げられている人気の高校である。その理由は他の高校にはない教育方針が人々に魅力を感じさせるからである。

 設立当初から絶勝学園第一高等学校は『サイキョウ』の生徒を育成することに力を注いでいる。そんな絶勝学園第一高等学校歴代の校長が入学式で生徒に言うことは毎回決まっている。

「校長を倒した生徒こそがサイキョウの生徒であり、その栄誉がこの学園の歴史に残るだろう」

 校長は毎年そのように断言して、自ら生徒から狙われるように仕向けた。実際、校長は幾千の喧嘩をしてきた人であり、凄腕のボディーガードがいるためガードは強い。これまでサイキョウの名を欲しさに挑んだ生徒達の中で校長を倒せた強者はいなかった。

 そこで、校長に立ち向かうべく、いつしか生徒達は派閥を作るようになって、リーダーにサイキョウの夢を持つようになった。しかし、誰もがサイキョウになりたいため派閥の数は多くなりすぎてしまった。そこで、校長は派閥を形成する際は現存する派閥のリーダーを一人打ち破るか、派閥リーダー全員の許可を得ることを条件とした。

 ここまでの情報だと学校内の治安は極めて良くないという印象を世間に与えるが、決してそんなことはない。派閥ができたことでサイキョウへの道に変化が起きたのだ。それは校長を倒す日と条件が決められたことである。今までは学園内限定で全校生徒は好きな時に好きなタイミングで校長を襲撃できたのだが、派閥結成以降は校長を決められた日以外で襲撃することと条件を守らずに校長と戦うことは禁止となった。各派閥のリーダーが校長と戦うことができるのは条件を全て守ったうえで、卒業式前の生徒会によって決められた日のみになった。そこで初めて派閥リーダーは校長と戦うことができるのだ。つまり、校長を倒すための条件を一年間守らないと、三月に貰える校長を倒すチャンスがなくなるということである。しかし、ここで気を付けなければならないのが、途中で結成された派閥はその年の校長を倒すチャンスは貰うことができない。そのため翌年に持ちこしとなり、その年のチャンスはない。


《サイキョウに挑戦できるための条件》

 条件一

 派閥内の内争や派閥同士の抗争、生徒同士の戦闘は果たし状を送り、双方合意の上でしか行ってはいけない。

 条件二

 カツアゲやいじめ、過度な暴力などの不良行為はしないこと。

 条件三

 授業はサボらずに出席すること。

 条件四

 不当な金銭や物の取引は行わないこと。

 条件五

 家族や人に迷惑をかけないこと。

 条件六

 武器の使用は認めるが、刃物や銃は禁止とする。

 条件七

 生徒会は中立な立場とするため、生徒会への攻撃は禁じる。

 条件八

 派閥のリーダーとなった者は課せられた課題を必ず解決すること。

 条件九

 学校を守ること。

 条件十

 在校生を守ること。


 これらの条件をどれか一つでも破った生徒は参加権がなく、特に条件六などの条件を破れば退学、場合によっては警察に突き出されることとなる。しかも、それが派閥の人間ならば、リーダーには連帯責任として校長を倒す権利は渡されない。つまり、その年のリーダーは校長を倒すチャンスすらもらえないのだ。

 そんなわけなので、ガラの悪い生徒が多いが、この高校には普通の真面目な生徒も通っている。いじめがあるかもしれない、発覚しても対応してくれないかもしれない高校に通わせるよりも、いじめをしたら即退学を有言実行している高校の方が安心できると思ってのことだ。実際この高校ではガラの悪い生徒と真面目な生徒が一緒に課題をやるといった奇妙な光景もよくみられる。真面目な生徒達も派閥に属しており、トップのために知識を貸すなど、この高校の生徒達はうまく交流しているのも人気の一つかもしれない。



 そんな風変わりな高校も毎年四月にはきちんと入学式を行う。制服は学ラン、セーラー、ブレザーと様々なのに加えて着方は自由なので、入学式にも関わらず制服に統一感はなかった。そんな個性豊かな新入生達の前に仮面をつけた男が立った。

「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。校長です。では、皆さん、ご存じだと思いますが三月に私を倒した生徒こそがサイキョウの生徒であり、その栄誉が学園の歴史に残ります。しっかり精進してくださいね」

 校長と名乗る男の爽やかな声色に、新入生達は胸を躍らせる。新入生の一人、青石あおいし入夏いるかもそうだった。



 クラスに移動してまず行うことは生徒手帳に書かれた校長を倒すための資格条件を読むことである。それを済ませてから自由時間になるとのことだ。

「入夏、お前はどの派閥に入るか決めたか?」

 自由時間になって入夏に声をかけたのは水野みずの海月くらげだ。入夏とは中学生の頃からの友人であり、志望高校と名前が海洋生物である共通点から意気投合し、今日まで良い友人関係を続けている。また、彼は家族の話をしたがらないので、それが入夏にとっては心地よかった。

「あー、まだ、よくわかんなくて」

 入夏は正直に答えた。

「なるほどなぁ」

 海月は入夏の前の座席に座る。

「イーグルは真面目で強そうだけど、厳しいって噂だよ。リベスは怖いよな。リーダーの谷すぐり先輩は鞭を使うらしいし。カメリアは、男は見た目で選ばれている所があるらしい。女子は歓迎って感じだけどな」

「一体いつそんな情報を得たのさ?今日入学したばっかりだよな?」

「えっ?みんな、言っているぞ」

「マジか」

「そういやさ、明日、入夏は派閥説明会に行く?」

 この高校には部活動説明会ではなく派閥説明会というものがある。この説明会で新入生の半分以上は所属する派閥を決めることになっている。しかし、派閥加入は強制ではないため、説明会も行きたい人だけ行けるシステムなのだ。

「あー、行こうかな・・・・だってさ、派閥、選ばないといけないもんな」

「別に選ばなくてもいいらしいけどね。ただ、そんな生徒いないから目を付けられるって感じらしい」

「それは怖い。とりあえず見に行くわ」

「じゃ、明日一緒に行こうよ」

「うん」

 海月は立ち上がった。同時にチャイムが鳴る。海月と入れ替わるように担任が入ってきた。


《作者コメント》

 こんにちは、小林六話です。新作『サイキョウ』が始まりました。ここで、皆様に注意点があります。次回以降、この作品には関西弁のキャラクターが登場しますが、作者は東日本出身なため、関西弁の知識は殆どありません。中学生の頃に関東圏に引っ越してきて、それから関東暮らしのため標準語も混ざりつつの関西弁っていうイメージで書いているのですが、おかしいところがありましたら、コメントでご指摘お願い致します。

 では、楽しんでくださいね。また、どこかの話で登場します。

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