第12話 イジマール前哨戦2



「あいつの技をやぶれば、とられた人のもとに、そのスキルは戻るんだ! ということは、ねえ、兄ちゃん。もしかして、数値はつまみ食いでとりもどせるんじゃない?」

「だな!」

「僕、食べるよ?」

「あっ、待ってくれ。兄ちゃん、鉄壁しときたいから、さきに動いていいか?」

「しょうがないなぁ」


 鉄壁は重騎士がおぼえる。騎士の基本中の基本。一度、その技を使うことで、数ターンのあいだ、パーティーを自動で守り、ダメージをすべて一手にひきうけるという、タンカーの特技だ。

 猛はHPが高いんで、壁役には最適だからね。


「鉄壁!」と、高らかに告げる声が二つ重なる。

 見ると、となりのパーティーでも、クルウが叫んでいた。さっき、みんなの壁になって倒れたのに、エライな。タンカーは防御力やHPが高いけど、誰だってなぐられれば痛いんだよ。その役を買ってでるって、スゴイなって思う。


「騎士道とは仲間を守ること。今度は誰も傷つけさせません!」


 クルウ、きっと、さっきのことがよっぽど悔しかったんだろう。宣言する声がここまで聞こえる。すると、クルウの体がとつぜん光った。


「兄ちゃん。クルウが騎士道をとりもどした!」

「みたいだな。じゃあ、兄ちゃんはつまみ食いだ!」


 猛がはしを持ってパクパクする仕草、通称エアパクパクをする。イジマールの力と知力がいっきにゼロになる。現状、これでイジマールは攻撃をしても相手にダメージをあたえられない。


 ふつうなら、つまみ食いでうばった数値は食べた人のものになるんだけど、今回は途中ですうっと消えた。ランスやホルズ、ドータスが大喜びする。どうやら、数値が戻ったらしい。


「おれたち以外にも百人の小隊が行方不明だっけ? アイツの特技、数えきれないほどあるし、みんな、うばったやつかもしれないな。力と知力以外も、四桁は強い。それも他人のかもだから、HP以外の数値、全部、食っとくよ」


 猛はさらに何度かエアパクパクした。たぶん、これでほかの人の数値も戻ったはずだ。


「ほかの特技はどうやってとりもどすの?」

「アイツが使わないと、その技をやぶることできないんだよな」

「または、同系統の技を自分で使うといいみたいだよね」


 さっき、クルウは鉄壁で騎士道をとりもどした。てことは、たぶん猛の『守る』も戻ったんじゃないの? 守るは鉄壁の個人対象技だ。


「お待ちください。同系統の技でいいのですね? わたしに行動させてください」


 バランだ。薔薇系統の技なんて、ほかに持ってたっけ? まあ、薔薇は補助スキルだから、後衛でも使える。


 バランが両手をひろげ、歌う。

「ハピネスフラワー」


 おおっ、スゴイ! 初めて見た。薔薇の十倍くらい花びら舞った。同時に力がわいてくる。この感じ、『みんな、もっとがんばろ〜』だよね? 攻撃力をあげるサポート魔法。


 バランがニッコリ笑う。

「薔薇の力が戻りました」


 よかった。薔薇はいっきに術者の数値1000もあがるから、イジマールに使われなかっただけでもラッキー。


「いつのまに、バラン。そんな技、持ってたの?」

「神獣クィーンハピネスのおぼえる技です。薔薇の進化系ですね」


 特訓で手に入れた職業のツボを使って、バランがついた精霊の最上位職か。てことは、実質、バランは神獣なんだよな。


 よしよし。着々と、とりもどせてるぞ。次は僕も……えっと、どうやったらいいんだ? 小説を書くは、僕だけのオリジナル技なんだよね。同系統もないし。


「かーくん。もしかして、封じ噛みで封印したら、その技、こっちに戻ってくるんじゃないか?」

「なるほど!」


 封じ噛みは一部のモンスターが使う。かみつき攻撃しながら、相手の特技のなかから、どれか一つをランダムで封じることができる。


 ん? 封じる……なんか、今の僕らの状態に似てるような?


 僕は一瞬、考えたんだけど、そのとき、あせったようすで、イジマールがわめいた。


「のっとる!」


 ああ、コイツ、誰かから『のっとる』うばってたのか!

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