五章 決着をつけよう!

第13話 イジマール戦1



 のっとるもモンスターが使う技ね。相手のターンを強制的に終わらせて、行動順をのっとってしまうっていうね。

 つまり、僕らのターンをとられてしまった。何かと盗んでく卑怯な敵だ。


 イジマールのターンになったとたん、ペロンと大男の巨大な舌がこっちに伸びてくる。ギャー! 汚い! そっか。ケロちゃんの自動発動石化舌だ。


「ヤダー! あんなおっさんの汚い舌でなめられたくない! 可愛いケロちゃんだからゆるされる技なんだよー!」

「僕もイヤです! 絶対、イヤ! こっち来ないでー!」

「鉄壁!」


 あっ、あわてふためく僕とロランの前に、猛がとびだしてきた。

 よかった。兄ちゃんに守られてる。じーん。やっぱり、いいね。猛、ありがとう。


「猛の犠牲は尊いよぉー! ありがとねー!」

「タケルさん、このご恩は一生、忘れません!」

「……」


 猛がなんか、なまぐさい。バッチイ……。


「……生きてるよ。死んだみたいに言うな」


 異常耐性持ってるから、石化もしない、と。


「ケロケロケロ〜!」


 あっ、ケロちゃんも石化舌、返ってきたんだな。わかりやすい子だ。そのかわり、猛が犠牲になったけど……。


 続いて、イジマールは仲間を呼んだ。

 ん? 巨大なクマのぬいぐるみ? これは、クマりんのパパか? なんと、さらにはママも呼びだす。十メートルのビルなみの巨大グマが二体。

 クマりんの仲間呼びがうばわれてたんだ。


 さらには、イジマールは気が狂ったようにピョコピョコ。これは、ぽよちゃんの『はねる』だな。にしても、どんくさい。ぜんぜん、とべてない。地面から十センチも浮いてるだろうか?


 寝ぼけたぽよちゃん、鼻ちょうちん、ふくらませながらも腹立ったらしい。野生のぽよぽよたちのあいだでは、跳躍の高さで群れでの順位を決めてるらしいんだよね。これは、あきらかに、ぽよちゃんにとっては挑発行為だ。


「ギュウー!」


 いつもの可愛いキュイじゃない。怒ったときの声を出しつつ、ジャンプアタックー!

 はねるの技は盗まれてるけど、それでもジャンプ力はぽよちゃんのほうが上だ。軽々、イジマールの頭をとびこえる。


「ピュイ〜!」


 あっ、はねるをとりもどした!

 ついでに両側のクマ二体を頭つきで、かるーく倒してくれた。クマたちはあわてて、クマりんのもとに帰ってくる。


「ぽよちゃん、まだ動けるよね? そのまま、動ける限界まで、封じ噛み!」

「キュイ!」


 ぽよちゃん、ほんと最強だなぁ。素早さ数値も高いから、そのあと二十回くらい、封じ噛みをしてくれた。

 むこうのパーティーから、アジがデッカイ丸を両手で作って知らせてくれる。封じ噛みで特技が戻ってきたようだ。


 たまりんもなんか無我夢中でハープひきながら、ゆらゆら踊ったあと、満足そうになった。


「僕の小説を書く、まだだな」

「僕の魅了もです」


 魅了はそれでも、味方が一時的に敵側につくだけですむ。だけど、小説を書くが使われたら、たいへんだぞ? とんでもないチート技だと気づかれませんように!


「のっとる!」


 あ、のっとるはまだ封じられなかったんだ。さっきから、僕、ぜんぜん動けてないんだけど?


 イジマールはとにかく、なんでも、ありったけの特技を使おうと思ったみたいだ。ちょっと自分のステータスをながめたあと、ニヤリと笑った。

 む? イヤな予感。


「魅了百パーセントー!」


 あっ、そっちだったか。ロランの技だね。僕らのほとんどは状態異常無効化の装飾品つけてる。けど、モンスターや一部の人がまだだったかも? ヤバイぞ。アジとか、トーマスとか、魅了されると、やっかいな技を使う!


 と思ったんだけど……。


「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」


 なるほどね。魅了を使うと、ロランの顔になるんだ。たしかに、魅了のもとは麗しの美貌にあるからね。

 そりゃ、ロランの顔は美しいよ? 天上天下唯我独尊てんじょうてんげゆいがどくそんだよ? 女の子だったら、文句なし奴隷まっしぐらだし、男だとわかっててさえ胸がドキドキバクバクするよ?


 けど、けどね? その麗しい顔の下がビヤ樽男の巨体ってどうよ!


 あっ、ロランのこめかみにピクピクと青筋が——


「ふっ……」


 笑ったのか? いや、違った。


「ふっざけんなー! 顔返せーッ!」


 だよね……。

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