第11話 イジマール前哨戦1



 大将軍イジマールが現れた!

 イジマールは怒り狂っている。イジマールのステータスが上昇した!



 テロップが空中に浮かびあがり、戦闘音楽がかかる。毎度のことながら、どこからともなく流れるBGMの不思議。


 ロランが戦いの先陣を切る。

「先制攻撃!」


 敵味方のなかで、必ずロランの属するパーティーが最初に行動するっていうスキルだ。

 そのあと、バランの薔薇が……あっ、薔薇は封じられてるんだっけ。いつも自動発動して、僕らを包んでくれる薔薇の花吹雪が今回は起こらない。バランは悲しげに顔をふせた。


「ロラン。バランは薔薇が使えないと、数値があがらないよ。今回は後衛から支援してもらったほうがよくない?」


 薔薇はさ。毎ターン術者のすべての数値が1000ずつ上昇するっていう、とんでもない効果があったんだけど、それがないと、バランのステータスは一万止まりだ。もちろん、通常のボス相手には一万で充分なんだけど、前回、戦闘不能になってるから、念のため。


「じゃあ、バランとクマりん、交代してください。バランは後衛で」

「お役に立てず、申しわけありません……」


 前衛は僕、猛、ロラン、クマりん。後衛に、バラン、たまりん、ケロちゃん、ぽよちゃん。

 僕には付属品あつかいのミニコがついてるし、ゴライとモッディはNPCなので、前衛に出てるけど、数のなかには入ってない。


「ぽよちゃん、聞き耳!」

「キュイ……キュウ……」


 何やら夢のなかでうなされてるけど、ぽよちゃん、聞き耳は使える。

 それにしても、何かたりないなと思えば、そうだよ。戦闘開始に自動発動するケロちゃんの石化舌、出なかったな。


「……もしかして、ケロちゃん、石化舌を封じられてるの?」

「ケロ……」


 ああ、ふりかえると、ケロちゃんの大きな目から涙の粒が! 石化舌でやたら仲間をペロペロする困ったクセのある子だけど、これはかわいそう!


「ま、待っててね。僕らがアイツを倒すからね!」

「ケロケロォ……」


 お願いだよぉと、ケロちゃんは言った。わかりやすい子だ。


 さて、聞き耳。

 それによると、イジマールの特技は……ん? なんじゃ、こりゃ?


「猛、ロラン。コイツの特技……」

「ですね。間違いありません」

「みんな、見おぼえあるな」


 魅了。反射カウンター。薔薇。石化舌。守る。はねる。騎士道。兵法。本を読む。ミダスタッチ。あっ、小説を書くもある! 数値も知力と力だけ異様に高い。知力、一万七千七百ほど。力は一万。


「これ、みんなのうばわれたものだ!」

「アイツ、他人からとったスキルや数値を自分のものにできるのか。マズイな。これは苦戦するぞ」


 ってことは、僕らが次々にやられてしまったのは、ゴライがとられた反射カウンターだ。自分をターゲットにされたあらゆる攻撃、魔法攻撃、ブレス攻撃を反射して、そのまま相手に返す反則技。


 でも、反射カウンターのやぶりかたは、もうわかってるもんね。敵のいい効果を打ち消すスキルや魔法を使えばいい。ムダに武闘大会で苦戦しつつも優勝したわけじゃないぞ。


 その他のスキルも、注意しとけば、なんとかなる。ただ問題なのは、ロランの魅了と、僕の小説を書く、だ。ロランの魅了は百パーセント効果だし、僕の小説を書くは、仲間の数値を下方修正されたら、それだけで全滅してしまう。しかも、書きなおさないかぎり、ずっとそのままだ。レベルアップしてもなおらない。呪いを解いても、魔法でもだ。HPゼロとか、それって蘇生もできないからね? つねに死んでる。


「僕たちのうばわれた能力……」

「なあ、かーくん。どうやったら、とりもどせると思う?」

「ふつうに戦っただけじゃダメなのかな?」

「うーん。兄ちゃんもこんな敵、初めて見るからなぁ」


 僕たちのようすを見ると、イジマールは嬉々として高笑いした。


「ハッハッハッ! どうだ! 恐れおののいたか? 自分たちの力によって死ぬがよいわー!」


 むう。ムカつく。けっきょく全部、借り物なくせして。


「ああ、腹立ちますね! みんな、行く——」

「わあわあ、ロラン! 落ちついて。待った。それ、まだダメ!」

「あっ、すいません。つい」

「とにかく、まずは反射カウンターをはがそう」

「ですね。じゃあ、僕が最初に行動します」

「頼むよ」


 ロランは叫んだ。

「虹のオーロラ!」


 勇者がおぼえる敵のいい効果を打ち消す呪文だ。

 七色に輝くオーロラがあたり一帯にわきあがる。ゆらゆらとゆれながら、イジマールを包みこんだ。


「ウオッ! な、何をするか!」


 すると、

「戻った! 反射カウンターが戻ったぞ!」


 寡黙なゴライが思わず大声あげるほどの喜びよう。


「そうか! イジマールがその技を使ったときにやぶれば、とりもどせるんだ!」


 そうとわかれば、こっちの反撃だ!

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