第8話 まだ残ってた
カウンターにしたって、化け物なみのステを持つ僕らを、一瞬でここまでやっつけられるなんて、どんだけ強いやつなんだ?
やっぱり、四天王ってウワサはほんとなのか?
なかば、ぼうぜんとする僕の前で、とつぜん、叫ぶ人が。
「魔王切りー!」
あっ、ロランの順番、まだ残ってたんだ。『みんな、行くよ〜』はロランにしか使えない技なのに、なぜか、全員突撃効果のなかに本人も入ってるんだよなぁ。微妙に変な技だ。ふつう、こういうのって術者自身はふくまれないものなんじゃ?
魔王切りかぁ。聞いたことない技名だな。ふむふむ。ロランのステータスを確認すると、勇者系の最上位職である勇神でおぼえる特技か。単体攻撃だけど、ボスに二倍ダメージをあたえる。魔王軍のボスなら三倍。
うん。いかにも勇者らしい技。魔王を倒すためにあるような技だね。
ロランの攻撃力は前述のとおり、十万。十万って、力の数値がマックス99999だから、つまり、限界値まであがりきってる。
敵のボスでも攻撃力じたいは、まだ三桁しか見たことないのに、十万。チートにもほどがある。これの三倍ダメージだ。三十万だよ。
いくらなんでも敵も倒れて……って?
あッと悲鳴をあげて、とつぜん地に伏したのは、ロラン自身だ。完全に目をまわしてる。目……ないけどね。
「ロラン! ロランー!」
必死にロランをゆする僕の肩に、猛がポンと手をかける。
「かーくん。ヤバイぞ。逃げるんだ」
「えっ? みんなは?」
「いいから、おまえだけでも逃げろ。全滅したら助けを呼ぶこともできない」
「で、でも……」
ゴチャゴチャ話してるうちに、僕らのターンが終わったのか? それとも、遅れてカウンターが返ってきたのか?
僕の目の前に炎の竜巻が襲いかかってくる。
あっ、これはたぶん、ぽよちゃんのギガファイヤーブレスかな?
いやいや、そんなこと考えてる場合じゃないぞ? 僕、よけないと。のんびりしてたら、やられるよ?
すると、猛が一瞬、僕の前にかけよろうとする仕草を見せた。でも、その瞬間、なんとも言えない申しわけなさそうな顔つきになる。
「ごめん。かーくん。兄ちゃんが使えなくなってる技、わかった」
「えっ? 何? てか、今?」
「守る、だ」
「えっ? てことは?」
「悪い。兄ちゃん、かーくんを守れない」
「ええーッ!」
いや、それはそれで嬉しいよ? 猛にとって一番大事なのは、弟の僕なんだね! 肉じゃなかったんだ!
ああ、そのおかげで僕はギガファイヤーブレスの直撃を受けて戦闘不能に……は、ならなかった。
「おまえたち、何してる!」
ん? 虚空から声が降ってくる。と思うと、空から金色に輝く人影が現れて、僕らの前に立った。僕をかかえて、よこっとびに飛ぶと、そのまま何やら呪文を唱えた。たぶん、戦闘離脱魔法だったんだと思う。
ダダッと外の廊下にころがりでる僕ら。
ワレスさんだ。わーい。僕の憧れの英雄が助けに来てくれたー! さっき生きてたメンバーは全員、その魔法で離脱できたみたいだ。つまり、僕、猛、たまりん、ぽよちゃんだけ。
「……全滅寸前じゃないか。何があったんだ?」
「わかりません。たぶん、カウンター系の技じゃないかと。ロランの『みんな、行くよ〜』で僕らの攻撃ターンだったはずなのに、いつのまにか、あの状態で……」
はぁ。こんな美しい人に姫だっこされてしまった。女の子だったらキュン死してたとこだ。僕、男でよかった。死なないですむ。
「みんな、行くよか。あれはパーティー全員が個々の最強技を使うんだよな? 攻撃力の強い技ほど、カウンターをくらうと同士討ちになりやすい」
「ですね」
カウンターを使う敵か。
そういえば、残ってるのは全員、回避率が高いメンバーだ。ぽよちゃんはパジャマの効果で鼻ちょうちんが割れないかぎり、回避率百パーセント。
これは完全なる作戦ミスだ。大事なものをうばわれて、あせってたせいもあるけど、本来は聞き耳で敵の行動パターンを確認してから動かないといけなかったんだ。
そうすれば、ちゃんと敵の効果を消す技を使ってた。こっちの攻撃もふつうにキマったのに。
「なんにせよ、かーくんの黄金の嵐が不発でよかったな」と、猛が言った。
「まあ、そうだね。商神のマスターボーナスで、傭兵呼び系の技が必中になったからね。百億円とかなげてれば、かるく全滅してた」
「だな」
それだけは不幸中の幸いってやつだ。
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