第6話 封印された特技たち



 ああ、僕って小説愛が小銭愛に勝つんだ〜

 ちょっと嬉しいな。へたすると、小銭愛のほうが勝っちゃうかなぁって。だって、こっちでひろう小銭って小銭じゃないからさ。さすがに僕ほどの小説好きでも、お金に目がくらむかと心配したよ。


 なんて、喜んでる場合じゃない!


「ほかのみんなも変なとこない? 使えなくなってるスキルは?」


 みんながあわてて自分のステータスを見なおす。


「あ、僕、魅了が使えません」って、これはロラン。

 なるほどね。美しいお顔が魅了のもとだった。


 一心不乱にステータスをチェックするメンバーが、次々に悲鳴をあげる。


「ああっ、かーくん。わは農業ができんようなっちょうよ」


 アンドーくん。あったね。農業ってスキル。

 そうか。アンドーくん的には農業のほうが隠れ身より大事なスキルなんだ。断然、隠れ身のほうが使えるんだけど。


「農業って何するの?」

「植物を育てぇのが上手になる」

「それ、戦闘に必要あるの?」

「ちょくせつはないだども、タネ育てぇと、ふつうの収穫の十倍になぁよ」


 ん? タネ?


「もしかして、力のタネとか、幸運のタネとか、数値あげるタネのこと?」

「数値あげのタネだと、収穫のときにもステあがるけんね。食べぇとまたあがるし、実質二倍効果」


 それか! アンドーくんの数値のよこに謎のプラス値がついてるの、何かと思ってた。


「かーくん殿。反射カウンターが使えぬ」と、ゴライ。

 得意の反射カウンターか。敵が打ち消し魔法を持ってないかぎり、ほぼ無敵。


「ああ! おれの力が!」

「おれもだ!」


 ホルズとドータスだね。二人は単純に攻撃力ね。


「おれは兵法が使えない」

 これは、トーマス。


「本を読むが……」と、アジも言う。


 クルウは冷静な顔つきだけど、やっぱり彼も特技の一つを失ってた。


「騎士道が使えませんね。仲間が攻撃を受けたとき、自動でダメージを肩代わりするスキルなんですが」


 モンスターたちは——


「かーくんさん。わたしの『薔薇』の表示色が薄くなり、使用不可のようです」


 薔薇の精のバランが悲しげな顔をする。

 そうか。薔薇の精だもんね。薔薇が一番大切な技なんだ。薔薇はターンの最初に自動発動して、バランの全ステータスをあげつつ、仲間の攻撃力もあげてくれる優秀な技だ。使えないのは痛い。


 ということは、ぽよちゃんも?


「あっ、ぽよちゃん、『はねる』がダメだね。そっかぁ、ぽよちゃんは聞き耳やギガファイヤーブレスより、はねるが大切なんだぁ」


 どうも、こうしてみると、技の強力さじゃなく、本人の愛着強いものがなくなってるみたいだ。僕の『小説を書く』は技としても抜群のチートだけどさ。


「猛は? 猛は何が使えないの?」

「ん? 兄ちゃん、別になんも使えなくなってないぞ?」

「えーっ? 兄ちゃんなら、つまみ食いなんじゃないの? 肉食えなくなるんだよ? 絶対、つまみ食いでしょ?」

「つまみ食い、使えるぞ?」

「じゃあ、念写?」

「念写もできるなぁ」

「武術?」

「ふつうに使えるなぁ」

「兄ちゃんばっかズルイ!」

「ははは」


「ほかに技が消えてない人はいないの?」


 いなかった。全員、何かしらが封じられている。


「かーくん! きっと、あの部屋にいるボスのせいです! 倒しましょう!」

「あっ、ロラン!」


 美貌をうばわれたロランが、見境をなくして大きな両扉にとびこんでいく。


「ああっ、待ってー! 危ないかもしれないよ?」

「倒せー! みんな、行くよー!」


 ああッ! それ、ロランの最強特殊技じゃん。パーティーメンバーが全員、自分の最強技をMPや行動順を使用せずに使うってやつ。前にヤドリギ倒すとき、勇者のイベントで獲得したんだよね。


 あっ、ヤバイ、ヤバイ。

 僕はこの技を使われると強制的に『全財産をなげうつ』って技を使うことになっちゃう。所持金を全額投じて、虚空から傭兵を呼び、金額ぶんのダメージをあたえる。ここに来てからだけでも百兆はひろったよ?


 なので、急いで、僕のお財布を預かりボックスのなかへつっこむ。これで銀行に預けたことになるから安心だ。


 僕らはロランの『みんな行くよ』にひっぱられて、扉のなかに吸いこまれた。ポイポイポイっとね……。

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