第5話 みんなの大切なもの



 はいはいはい。次は何?

 急いで声のしたほうへかけていく。前方に馬車が見えた。

 あっ、クルウたちの隊だ。


「ギャー! おれの……おれの知力が! 知力がー!」


 ああ、大さわぎしてるのは、ランスじゃないか。人間アレルギーのはずなのに、クルウに肩をかかえられても文句一つ言わない。それとも何か? 美形なら、じんましん出ないのか?


「どうかしたんですか?」


 合流した僕たち。

 たずねると、冷静沈着なクルウが、やや表情をかたくしてる。


「このあたりへさしかかったとたん、ランスさんが知力をうばわれてしまいました」


 やっぱり。ランスは魔法オタクだからね。

 知力は魔法の威力にかかわる数値だ。僕が小説を書くで一万たしてあげたり、特訓で爆上がりしてたんだけどな。今、ステータスを見ると、知力ゼロになってる。この数値は脳みその出来とは別みたいなので、知性を失ってアヘアヘしてたりはしない。してたら……惨事だったね。


「まあ、数値の問題なら、僕が小説を書くで、もとに戻すこともできるよ。それはかんたんに解決できるんだけど」

「じゃあ、すぐなおしてくれ! 特訓したから、知力二万近くまでなってたんだ」


 そうだったかな? 確認してなかったけど。上乗せしてないか?


「まあいいや。二万にしとけばいいんでしょ」


 僕はスマホをとりだして、ポチポチと、ここまでの経過を書く。それは書けた。書けたんだけど、いざ、ランスの数値をゼロから二万になおそうとすると、書けない。


「あれ? 打ちこめない? もしかして、上方修正が僕の能力限界こえてるんじゃないの?」


 小説を書くで変えられる数値は僕との親密度で違ってくる。ランスは二万までしか変えられない。以前に知力に一万、HPとMPに五千ずつ書きたした。だから、それを大きく超える数値は打ちこめない。


 にしても、いつもなら、そんなときは、ブブーとブザーが鳴って、『エラーです。打ちこめない内容があります』って、テロップが教えてくれるんだけどな。

 おーい。テロップさん。急に無口になったの? あっ、ゴライの伝染うつった


「ランス。正直に言って。二万は行ってなかったよね?」

「あ、う、うん。まあ」

「じゃあ、いくつ?」

「17613」


 す、すごい。下一桁までおぼえてるのか。魔法と魔法威力への深い愛を感じる。


「それって、マスターボーナス値とか、就労ボーナス込みだよね?」

「うん。まあ。素は10940。マスターボーナスが15%で、就労ボーナスが40%」


 す、すごい……僕だって自分の数値、そこまでしっかりおぼえてないのに。


 ちなみにマスターボーナスっていうのは、職業をマスターするとつくボーナスアップ値のこと。就労ボーナスはその職業についてるときにだけかかる増減値だ。上級職ほどたくさんボーナスがかかる。


「まったくもう。嘘つくから、ちゃんと打ちこめないんだよぉ」


 じゃあ、今度こそ——と思いつつ、10940と……10940……。


「あ、あれ? 打てない?」


 変だな。充電はまだ60%以上残ってるし、問題ないはずなんだけどな。さっき、ここまでの経過は書けたよ? なんで、数値だけ打てない……数値、? むむむ。そこはかとなく、イヤな予感。


 何度タップしても、やっぱり数字が打ちこめない。試しにゼロって入れると、これは打てる……。


 よこで見てた猛がボソッとつぶやいた。


「かーくん。小説を書くのスキル、使えなくなってないか?」

「ギャー! 言うなよぉー! 今、もしかしたらそうなんじゃないかって思ってたとこなんだからぁー! ヤダ、ヤダ。小説書けないと、かーくん、死んじゃうよ! 僕にとって小説を書くのは、ふつうの人が息をするのと同じことなんだー! みんな、息ができないと死ぬよね? 死ぬよね? 僕にとって小説を書くのはそういうことなのっ!」


 はぁはぁ。口からアメちゃん出てくる別のサイドストーリーなら、けっこうな量のアメが大放出されてるとこだった。僕もまわりの人たちもアメちゃんに埋まって窒息してたかも。今は出ないからね。よかった。


「いや、よくないんだったー! 僕の小説を書くが、か、書けないっ!」


 じっさいには小説は書けるんだけどね。事実と違う内容を記入して、事実のほうを小説の内容に改変する能力が使えなくなっただけだ。


 すると、猛が推理するときのポーズしながら告げる。


「もしかして、おれたち全員、自分の一番大切なものを盗まれているのかもしれない?」


 一番大切なものですと?

 ロランの美貌愛。

 ランスの魔法愛。

 僕の小説愛。

 なるほどね!

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