二章 うばわれていく

第4話 顔がない!



 のっぺらぼう。

 それは顔のない妖怪だ。有名な古い怪談の『置いてけぼり』に出てくるよね。

 つるんとした皮膚に、目鼻口はナッシング!


「ああー! ロランの美貌がー!」

「えっ? 僕の顔がどうかしたんですか?」


 しまった! ロランは強烈ナルシストだ。顔がなくなったなんて知ったら、どうなってしまうんだー!


「え、えと……なんともないよ? ね? 猛?」

「あ? ああ、そうだ。なんともない!」


 ロランは疑わしそうな表情……ん? 目鼻ないのに表情はあるのか?


「でも、なんか、今、僕の顔がどうとか言いましたよね?」

「えっと、それは……」


 うろたえる僕をすかさず猛がカバー! さすが、兄ちゃん。頼りになるぅ。


「カンテラの光で見ても輝いてるねって言ったんだ。な? かーくん?」

「そ、そうだよ! ロランは美少年だよね! 世界一!」

「それはまあ、わかってますけど……」


 わかってるんだね。

 とにかく、なんとかごまかせそうだ。たぶん、きっと、館に仕掛けられたトラップか、敵の魔法のせいだ。どうにかして、ロランにはナイショのまま、顔をとりもどそう!


 ところが、僕と猛がおたがいの目を見てうなずきあったそのときだ。


「ふぁ。よく寝た。あれ? ば、化け物ー! か、顔なしオバケー!」


 馬車のなかで、羊飼いが派手にさわぎだした。ゴライの仲間だ。てかさ、あんた、潜入ちゅうに寝てたんだ?


「ギャー! オバケー!」

「猛、アイツの口をふさぐんだ!」

「キュイ!」

「……ぽよちゃんのマネしなくていいから」

「あっ、すまん。つい、聞き耳のときのクセで」


 僕らがゴチャゴチャ言ってるうちにも、羊飼いは叫ぶ。


「オバケー! 顔がないよ。かーちゃーん!」


 えーい。マザコンの羊飼いめ!


「ぽよちゃん! 羊飼いに頭つき!」

「キュイ!」


 今度は本物のぽよちゃんが返事した。寝てるけど、なぜか僕の指示は聞いてくれる。可愛いウサギにドンと頭ぶつけられて、羊飼いはふたたび夢のなかへ——


「はぁ、よかった。これで、ロランの顔がなくなってるってバレずにすんだよ」


 その瞬間に、ポンと猛に肩をたたかれる。


「えっ? 何?」

「ほら、アレ」


 猛が示す親指のさきを見ると、わなわなふるえるロランが……。


「ぼ、僕の顔がないって、どういうことですかーっ?」


 で、バッグから手鏡をとりだして、

「キャーッ! 僕の顔がー!」


「ああ……バレちゃった」

「かーくんのせいだろ? 心の声がデカいんだよな」

「ええー? 僕のせい? あの羊飼いがさわぐからだよぉ」


「どっちもです!」って、ロラン、泣きながら言わなくても……あれ? 目がないのに涙は出るんだ。不思議現象〜


「え、えっと、ロラン。落ちついて。たぶん、ここの敵の魔法だよ。ボスを倒したら戻るはずだから」

「はずって、戻らなかったらどうするんですか? 僕の……僕の美しい顔が!」


 つるんとした顔を両手で覆って泣くロラン。

 困ったなぁ。どうしよう。これじゃ、ロランは戦力外。よりによって、ロランの最大の弱点をつかれるとは。


「とにかく、ロランは馬車に入っててよ。ね? 僕らが必ず、なんとかしてみせるから!」

「うっうっ……お願いします」


 任されたものの、さて、どうしよう? 顔がなくなるなんて、ホラーとしか思えない。ま、まさか、この館には呪いとか、オバケとか、呪いとか、呪いとか?


「ヤダー! 呪いはヤダよ!」

「かーくん。落ちつけ。たぶん、ただの魔法だ。おれたちまであせっちゃいけない」

「う、うん。呪いだったら、猛がかわりに受けてね?」

「えっ?」

「えっ? ダメなの?」

「ダメじゃないけど、できるかなって」

「猛ならできるよー!」

「できるかな?」

「できるよー!」


 と、そこへ、どこかから、ギャーと悲鳴が。

 今度は何?

 もういいかげん、変なことは起こってほしくないんだけどなぁ。

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