第3話 奇妙な館



 クルウも強いけどね。

 僕らのパーティーはもっと強い。なにしろ、ロランなんて攻撃力五万、武器攻撃力五万の十万パワーだ。

 えっ? 華奢なのに、なんでこんな力持ちなのかって?

 だって、僕の『小説を書く』ってスキルで、自由に数値入れかえられるからさ。ふへへ。かーくん無双!


 僕らは館へ侵入する。僕らが表門。クルウたちが裏にまわった。ロランの危険察知によれば、ボスの気配は最上階の中央あたりにあるっていう。そこらで合流しようって作戦だ。ダンジョンのなかは、くまなくまわらないと、思わぬ必須アイテムが置いてあったりするしね。


「えへへ。さっそく、僕の小銭ちゃん、みっけ」

「かーくんの小銭じゃないだろ。大金だ。いいなぁ。兄ちゃん、うらやましいぞ」

「いいでしょう。僕のスキルだからねぇ」


 この世界に召喚された人間は、現実の世界での特技やクセがスキルとして使えるんだよね。僕は、つまみ食い、小説を書く、小銭ひろいだ。小銭、現実でもよくひろうんだよ。こっちでの小銭は、銀行に預けてる残高をふくむ所持金の百分の一。銀行貯金がすでにスゴイことになってるから、今では一回で数兆円ひろう。しかも、十五メートルごとに。


「これで、今回もたくさん傭兵が呼べるぞっと」

「兄ちゃんも傭兵呼びの名簿に登録しよっかなぁ」

「兄ちゃんには僕がお小遣いあげてるよね?」

「足りないんだよぉ」

「じゃあ、ほら、百億円、あげるから」


 ハッハッと舌を出すワンコロのごとき、わが兄よぉ。


「かーくん、猛さん。ハメを外しすぎですよ。四天王がひそんでるかもしれないんですからね」

「ごめん。ロラン」

「このさきにボスの気配があります」

「えっ? もう? ザコも弱いし、なんか変だよねぇ」

「罠があるかもしれませんね。気をひきしめましょう」


 薄暗い洋館の廊下を、カンテラの明かりをたよりに進んでいく。不思議と馬車だって入れてしまうんだよね。


 馬車の外は僕、猛、ロランとゴライだ。

 ゴライはなんもしゃべらないなぁ。なんか、ずっと、するどい目で僕らのこと見てる。なんで自らこっちに来たんだろう?

 そ、そう言えばさ。ゴライって、前に魔王軍のスパイじゃないかって疑ったことがあったんだよね。武闘大会の途中、挙動が不審だった。


 まあ、あのときのスパイは別人だったから、ゴライは単に怪しいふんいきをかもしだすおっさんなのかもしんないけど。寡黙すぎるんだよね。言いたいことあるなら言えよう。


 そばで見ると、ほんと巨人だなぁ。そうそう。巨人族と人間族のハーフなんだっけ。でも、よく見ると、顔はゴツイけど、わりとイケてる?


「ゴ、ゴライさんは、なんで今回、ワレスさんに協力してるんですか? 武闘大会終わったし、故郷に帰らないんですか?」


 僕らは魔王倒さないといけないからね。ボイクド城に兵舎もらって暮らしてる。

 すると、ゴライはうなだれた。表情は岩だけど、なんとなく気落ちしてるのはわかった。ん? もしかして、ゴライの出身地って、ウールリカだったかな?


 ウールリカはボイクドの隣国だ。けど、魔王軍の侵攻を受けて、陸路からは通行できない。海路なら通じてるとこが、まだあるらしい。


 悪いこと言ったかな? ウールリカには帰れないよね。もしかしたら、命からがら逃げだしてきたのかもしれない。ってことは、ワレスさんの下で兵士になるのかな?


 ゴライはやっぱり何も言わない。うーん。筆談? 筆談ならいいの?


 まっすぐ続く廊下を進む。

 そのときだ。

 とつぜん、先頭のロランが叫んだ。


「あッ!」

「どうしたの? ロラン? なんか、ふんだ?」

「今、体に電流が走ったような……」

「大丈夫?」

「たぶん、ケガはしてないと思う。けど……なんだろう? 視界が暗くなったような?」

「目にゴミでも入ったかな? こっち、むいてみて」

「うん……」


 そして、僕らは見た!


「ギャー! 蘭さんが、のっぺらぼう!」

「かーくん、蘭じゃないぞ。ロランだ」

「今、そこじゃないでしょ!」

「じゃあ、どこ指摘すりゃいいんだよ?」

「か、顔じゃないの?」

「やっぱ、そこだよなぁ。ハハハ……」

「ふへへ……」


 ああ、こんなとき、アンドーくんがいてくれたら、「かーくんも猛さんも、笑っちょう場合じゃないでしょうが」って、出雲弁でたしなめてくれるんだけどなぁ……。

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