第2話 潜入するよ
はい。で、今、ここだ。
僕らは問題の館にやってきた。ボイクド国とミルキー国の国境付近に、ぽつんと小高い丘がある。見るからに禍々しい洋館は、月を背景にして建っていた。
「わあっ……オバケ屋敷」
「ハハハ。大丈夫。兄ちゃんがいるから怖くないぞ?」
「いやいや。オバケのふりしておどすじゃん」
「かーくんが可愛いからだよ」
なんて、いつもどおりのじゃれあいを経て、館へ潜入することになった。
館を前にして、クルウが作戦を述べる。
「ごらんください。館には表口と裏口がある。パーティーを二つにわけましょう。私、ホルズ、ドータスは全員、騎士系の職業です。さらにはゴライも格闘王だから、我々に戦法が近い。メンバーをシャッフルしてもらえるとありがたいのだが」
なるほど。たしかに、補助系がいないね。うちはメンバー全員が攻撃も回復もできるからなぁ。
ちなみに、会議室のメンバーのほかに、うちにはさらに二人、仲間がいる。トーマスとアジだ。男ばっかり! 女の子がパーティーに入ってくれない呪い(そんなのあるのかな?)だ!
トーマスもミルキー城の元兵士。戦闘中、仲間の数値などをあげてくれる補助スキルを持ってる。見ためは茶髪に水色の目。わりとイケメンなモブ顔というか。
アジはまだ十四の少年なんだけど、わけあって僕らと行動をともにしてる。
「アジは子どもなんだから、宿舎で待っててもいいんだよ」と説得したんだけど、来るって本人が言うからさ。
「だって、シャケ兄ちゃんがいるかもしれないだろ。おれも行くよ」
「シャケはゴドバを追っていったからね。四天王がいるってウワサを聞けば、やってくるかも」
というわけで、
「アジは回復魔法や算術が使えるから、クルウさんたちのパーティーに行ってくれるかな? アンドーくんも回復と補助が多彩だし」
「オッケー。特訓で強くなったしね。おれ、役に立ってみせるよ」
「行ってくぅよ。かーくん」
アンドーくんは隠れ身で姿を消して移動できるから、潜入にはもってこいなんだけど、しかたないね。こっちには、人間のほかに可愛いモンスターの仲間もたくさんいるし。
「では、こちらからはホルズとドータスをつけましょう」と、クルウ。
僕は二人をながめた。ホルズとドータスは、これまで、いっしょに行動したことあったな。ホルズは二メートルまではないけど、一メートル九十センチはある巨漢。浅黒い肌のワイルド系。
ドータスは小柄で細目のおちゃらけ系だ。でも、じつは頭悪くない。むしろ、ホルズのほうが単純。
「どうする? ロラン」
「うちには、たまりんやバランもいるし、クマりんもケロちゃんもいるしね。ぽよちゃんは夜だから寝ちゃってますけど」
「ぽよちゃん、夜は苦手なんだよぉ。でも、眠りのパジャマ着せたから、いちおう戦えるよ」
眠りのパジャマは以前の戦いで手に入れた。帽子、パジャマ、くつしたをセットで着せると、寝ながら夢遊拳というのを使えるようになる。
「キュイ……」
ぽよちゃんはパジャマの効果で鼻ちょうちん出しながら返事してくる。可愛いなぁ。ちなみに、始まりの街付近にいる最弱モンスターのぽよぽよ。ちょっと大きめのウサギだ。
ロランまで笑いだす。
「あはは。何回見ても、可愛いですね」
「ぽよちゃん、勝手に鼻ちょうちんにされてると知ったら怒るかなぁ?」
「ぽよちゃんなら気にしないんじゃないですか?」
なんて話してたら、馬車のなかから、声が。
馬車は僕らが旅のとき必ず移動に使ってる。もう一台、デッカイ猫がひいてる猫車もある。
「ちょっと待てよ! おれのこと、忘れてないか?」
「……」
忘れてた。ラフランスさんもいたっけ。この前の武闘大会のあと、僕らの仲間になった魔法使いだ。前はギルドの魔法屋の店員だった。さみしがりやの人間アレルギー。
ラフランスさんは白銀の長髪と若草色の瞳。見ためはけっこうイケメンだ。でも、人間アレルギーのせいで、僕らに近づけないんだよな。
「ラフランスさん」
「ランス」
「はいはい。ランス」
人間アレルギーのくせに愛称呼びを強要してくる。
「ランスは強力な魔法を後衛から使える大魔法使いだし、騎士パーティーの補助をしてあげてよ」
「魔法、使いほうだいだな!」
「あ、うん……」
「うぉー! 萌える! けど、むさくるしい男どもよ。おれによるな。じんましん出るだろ!」
ああ、変わらないなぁ。この人。
「では、かわりにホルズとドータスを——」と、またクルウが言いかけたんだけど、そのとき、自らふみだしてきたのが、ゴライとモッディだ。
「おれが行こう」
ふーん。武闘大会のライバルかぁ。まあ、いいでしょ。
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