第223話 五月十一日はご当地キャラの日

 滋賀県彦根市に本部を置く一般社団法人日本ご当地キャラクター協会が制定。

 地域の活性化を目指し、街を元気にするご当地キャラクター(キャラ)同士の連携を深め、それぞれのローカルキャラクターを全国に発信するのが目的。

 日付は五と十一で「ご(五)当(十)地(一)」と読む語呂合わせから。



「それではマルバツ村の第十回ご当地キャラ検討会議を始めます」


 青年部の部長を任されている俺は、暗い気持ちで村の重鎮たちに向かって会議の開会宣言を行った。


「みなさん十分に認識されていると思いますが、今回でデザイン案が決まらなければこの話はお流れになります。お互い配慮を持っての議論をお願いします」


 農業を中心に暮らしを営んでいる我が村に、ご当地キャラを作って村おこしをしよういう話が持ち上がった。まあ、それ自体はよくある話で良いのだが、村のPRと言っても農作物しかなく、その農作物にしてもそれぞれの農家が作っている物が違ったりして、何をメインにするのかで意見が割れてしまう。もう九回も会議をしたのだが、いつも喧嘩別れとなって、未だに白紙の状態だった。


「だから毎回言ってるけど、村で一番出荷量も多くて有名なのは玉ねぎなんだ。だから頭は玉ねぎで良いだろ。後のパーツは雑魚どもで好きに決めてくれ」


 玉ねぎメインの農家代表の作田さんが口火を切った。


「確かに玉ねぎが有名なのは認めるよ。だがな、だからこそ、ここは違う野菜が頭を取る方が良いんじゃないか。それに玉ねぎが頭って、黒〇徹〇かと笑われちゃうよ」

「永沢君かも知れないぞ!」


 白菜メインの農家の田川さんが作田さんに反論すると、仲間から応援のヤジが飛ぶ。

 数では玉ねぎ農家の方が多いのだが、その他の人達は田川さんをリーダーに結束して対向している。


「白菜を頭にするって、頭頂部が爆発してるだろ!」

「とんがっているよりカッコいいわ!」

「じゃあ、頭をミカンにしてはどうだ? ミカンなら可愛いキャラになるよ」


 作田さんと田川さんの言い争いに、第三の勢力である果物農家代表の山下さんが入って来る。


「雑魚農家は黙ってな」


 作田さんが山下さんに暴言を吐く。

 本当は多数決でもすれば良いんだけど、三者は人数的に拮抗しており、実施しようとすると多数派工作でワイロが飛び交う展開になってしまう。


「誰が雑魚農家だって言うんだ!」

「うちの村は野菜がメインなんだよ! 果物なんて添え物でしかないんだ」


 田川さんまで果物農家を侮辱する。


「果物農家がいるから観光客が来てくれるんだよ! いちご狩りやみかん狩りは大人気だ! 偉そうに言うなら、玉ねぎ狩りや白菜狩りをやってみろ!」


 やっぱりこうなるのか。これでは全く纏まらない。


「あの、くじ引きかじゃんけんで決めたらどうでしょうか?」

「こんな重要なことを、そんな運任せで決められるか!」


 折角の提案も、三人揃って否定された。


「もう分かりました! こうなったら何のしがらみの無い私が勝手に決めます! 異論は許しません!」


 俺は頭に血が上りキレてしまった。普段温厚な俺がキレたので、三人も驚いて声が出ない。

 幸いに私は父親の代から役所勤め。農家とは全く関わり合いが無い。もう農家の連中に任せていたら先に進まないと判断した。

 とは言え、実際に作るとなると難しい。出来るだけ平等にしなきゃ文句も出るだろうから。

 結果、出来たキャラはこんなのだった。

 頭は白菜、体は玉ねぎ。片足は大根でもう片足は山芋。腕はゴボウと長ネギ。頭にはブドウといちごの飾り物。ミカンを使って頬紅代わり。胸は巨乳ちゃんだ。片方はスイカでもう片方はかぼちゃ。名前はマルバツーちゃん。

 我ながら恐ろしい物を作ってしまった。フランケンシュタイン博士はこんな気持ちだったんだろうか。しかし、出来てしまったからにはこれを推し進めるしかない。

 村のホームページやパンフレット、農作物の出荷する箱等にマルバツーちゃんのイラストを描き入れて広報した。

 県にも交渉してホームページや広報誌で紹介して貰った。担当者はマルバツーちゃんのイラストを見た瞬間はギョッとしてたけど。

 まだまだ足りない。後はSNS戦略だ。俺はツイッターアカウントを作り、中の人としてツイートしまくった。作戦は「正義マン」だ。

 炎上案件に積極的に絡んで行き、正論をツイートする。諸刃の剣だが、正論なので結構支持されてフォロワーも増えて来た。グロテスクな外見で正論を言うのが、面白くて受けたみたいだ。


「いやー観光客や農作物の出荷数も増えて万々歳だよ。良くやってくれた」


 俺は村長から直々にお褒めの言葉を頂いた。正直、これで良かったのかと疑問に思わないでも無いが、結果オーライだった。これからも反感買わない程度に、中の人を頑張ろう。

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