第221話 五月九日は告白の日

 ユニリーバ・ジャパンの男性用化粧品ブランドAXEが二〇一一年に制定。

 五(こ)九(く)で「こくはく」の語呂合せ。



 本作は「一月一日は元日」の続編となります。


 今日はコンビニバイトの同僚である作本さんと、二人で飲む約束をしている。正月に一緒に初詣に行って以来、彼女とは二人で食事に行ったり、遊びに行ったりと良好な関係を続けている。

 今回もその流れで居酒屋に飲みに行くのだが、今日は絶対に言うぞと心に決めていることがある。それは作本さんに付き合ってくださいと告白することだ。その為に個室の店まで予約した。

 作本さんと何度もデートや食事に行くうちに、彼女の飾らない素直な性格に惹かれて行った。すぐにでも告白したかったのだが、俺は三十歳を目前にしてフリーター。そんな不安定な生活している男が彼女になってくれと言うのは無責任だと思っていた。

 それからの俺は就活を頑張った。その甲斐あって仕事も決まり、コンビニのバイトも今週で終わった。もうこれで連絡を取らないと作本さんとは会えなくなる。だから俺は今日を逃してはなるものかと、告白を決意したのだ。


「あの、乾杯をする前に、ちょっと話があるんだ」

「はい、何ですか?」


 作本さんは持っていたビールのジョッキをテーブルに置いた。


「作本さんのことが好きなんです。俺と付き合ってください」


 俺はテーブルのに手を付いて、頭を下げた。

 こんな場所でと思われるかも知れないが、酔った勢いで告白したくなかったので、飲む前にすると決めていたのだ。


「ええっ!」


 作本さんは、俺の予想以上に驚いた。

 凄く怖くなった。これは間違いなく振られる前兆だろう。


「私達、まだ付き合って無かったんですか?」

「ええっ!」


 今度は俺が驚いた。


「原口さんって、全然手を出して来ないから紳士的だなって思ってたんだけど、そうか……」

「いや、だって、俺は三十手前なのにフリーターだろ。そんな無責任なこと出来ないと思って……」


 悪いことした訳じゃないのに、しどろもどろになる俺。


「そっかー、でも嬉しいな」


 作本さんはそう言って、ニッコリ笑った。


「嬉しいって?」

「だって、それだけ大切に思っていてくれたって、ことでしょ? そりゃあ、女として嬉しいですよ」

「そ、そうなの? あの、それじゃあ……」


 女心なんか経験なさ過ぎて分からない俺。


「もちろん、オッケーです! だいたい、ここで断るような人とは、何度も遊びに行ったり、食事に行ったりしませんよ」

「いやー良かった。凄くホッとした」


 俺の正直な気持ちだった。


「あっ、もしかして、就職したのもこの告白の為ですか?」

「そうだよ。俺、ずっといい加減な暮らししてたけど、作本さんと初詣に行ってから、何か変わらないとって思ってたんだ。だから、仕事も頑張るよ」

「そうかー益々嬉しいな」


 作本さんが喜んでくれて良かった。


「よし、決めた! 私も就活します。この男女平等の時代に、原田さんだけに頑張らせるのは違うでしょ」

「それは良いね。俺も嬉しいよ」

「じゃあ、乾杯しましょうか」


 俺達はジョッキを持ち上げた。


「まずは、原田さんの就職を祝って、カンパーイ!」

「ありがとう!」


 俺達はジョッキを当てて乾杯した。


「次は付き合えた記念にカンパーイ!」

「これからもよろしくお願いしまーす!」


 今度は俺の音頭で乾杯した。


「付き合いだしたんだから、いつまでも名字で呼ぶのも他人行儀ですよね」

「じゃあ、名前で呼ぶ?」

「そうですね。それじゃあ私から、隆司さん」

「何だい? 有紀ちゃん」

「うわー恥ずかしー!」


 有紀ちゃんは笑顔のまま照れて顔が赤くなる。

 もう俺達二人には、幸せな未来しか見えなかった。

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