第220話 五月八日は万引き防止の日
防犯カメラによるセキュリティシステムを取扱う株式会社ジェイエヌシーが二〇〇九年に制定。
五(ご)八(よう)で「ごよう」(御用)の語呂合せ。
「あっ、ここ無人販売の店だ」
一緒に街を歩いている妻が、餃子の無人販売の店を見つけて指差した。
「へえ、これが最近話題の無人販売店か」
「さあ、行くぞ」
立ち止まって中を覗いている妻に、俺は声を掛けた。
「ちょっと中に入ってみない?」
「嫌だ。俺は無人販売の店が嫌いなんだよ」
俺はそう言って、また歩き出した。
「どうして無人販売の店が嫌いなの?」
俺に追い付いた妻が、不思議そうに聞いてくる。
「あんなふざけた商売は無いからな」
「ええっ、ふざけた商売って、いなかの道沿いにも有るじゃない。人間の善意を信じた、立派な商売じゃないの?」
妻は俺の言葉を聞いて意外そうに反論する。俺はしっかり説明するべきだと思って、立ち止まった。
「あの商売は田舎の無人販売店とは全く違うんだよ。万引きされたとしても、人件費以下なら損は無いってシステムなんだ。人間として最低限のモラルさえ守って無いんだよ」
妻はまだ意味が分からないのか、キョトンとしている。
「犯罪を犯す奴は絶対的に悪い。それは間違いない。だが、犯罪を犯しやすく放置しているのも悪いんだ。犯罪を犯す奴が出ないようにちゃんと防犯するのも、人として守らなきゃならないことなんだよ。
例えば、車にキーを付けたまま、ドアの鍵も閉めないで盗まれたとしたらどう思う?」
「盗った方が悪いけど、盗られた方もちゃんと防犯をしなきゃ駄目だと思う」
「そうだろ。万引きって言うのも馬鹿に出来ない犯罪なんだ。盗癖って言葉があるくらい、癖になるものだからな。商売する者のモラルとしても、最初の一回の間違いを犯させないように防犯すべきなんだ。万引きしてしまう奴の為にもな」
「確かにそうかも知れないね」
「だから人件費を使わない方が儲かるかも知れないけど、最低限一人だけでも店内に立たせておくべきだ。それが出来ないなら、最低限自動販売機を導入すべき。どちらもしないのなら、犯罪を助長していると言われても仕方ないよ」
「分かった。私も行かないようにするわ」
「ああ、それが良いよ」
俺と妻は笑顔になって、また歩き出した。
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