第218話 五月六日はコロッケの日

 各種の冷凍食品の製造販売を手がけ、全国の量販店、コンビニ、外食産業などに流通させて、日本一のコロッケメーカーを目指す香川県三豊市の株式会社「味のちぬや」が制定した日。

 日付は明治時代に登場して以来、庶民の味方として親しまれてきたコロッケを春の行楽シーズンに家族で食べてもらいたいとの願いと、五と六で「コロッケ」と読む語呂合わせから。



 壁に向かって事務机が二つ並んでいるだけの小さな一室に、若い男二人が店で買ったお弁当を食べている。

 一人は白を基調とした服装の銀縁眼鏡を掛けた優男。もう一人は優男とは対照的に黒ずくめの服装をしている髭面の男。実はこの二人の青年は天変地異から地球を守る為に、遠い星からやって来た異星人なのだ。何か地球に異常を発見したら、すぐに出動出来るようにこの事務所で待機している。


「コロッケってご飯のおかずにならないよな」

「えっ?」


 髭面がぼそりと呟いた一言に驚いて、優男の箸が止まる。


「いや、コロッケってご飯と一緒に食べられないから、おかずになんないよねって……」

「いやいやいや、なるよ。おかずになるよ。えっ? どうしてなんないの?」


 優男は髭面の言葉を否定して、逆に理由を尋ねる。


「いや、だって、コロッケってほとんどジャガイモだろ? じゃがいもはおかずにならないよ」

「いやいやいや、じゃがいもおかずになるでしょ。カレーにもシチューにも入っているし」

「ええっ! カレーにジャガイモってどこの世界のカレーだよ。あんたの星じゃカレーにジャガイモ入ってるの?」

「カレーにはジャガイモ入ってるでしょ! なに言ってんの。当たり前じゃないか」


 だんだん二人はヒートアップしていく。


「まあまあまあ、じゃあカレーはまあ良いよ。置いておこう。シチューはどうよ? シチューなんてそれ自体がおかずになんないでしょ。だってあれは飲み物だし。いくら具が多いからって、味噌汁とご飯だけじゃ物足りないだろ」

「シチューも味噌汁もおかずになるよ。具と一緒にご飯食べられるよ」

「何だかなあ……もしかして、あれ? 焼きそばやラーメンでご飯食べちゃう人?」


 髭面は少し呆れたように、優男に聞く。


「そりゃ食べるよ。だって焼きそば定食なんて普通にあるし、ラーメン屋にも白ご飯あるだろ」

「どちらも炭水化物、炭水化物じゃん、絶対に太るぞ」

「俺の方がお前より痩せてるよ」


 確かに優男の方が痩せている。そう言われると髭面は言い返せない。


「でもなあ……何でもかんでもご飯と一緒に食べるのって、俺は理解出来ないね。どうせお好み焼きもご飯と一緒に食べるんだろ?」

「いや、それはない」

「ええっ?」


 優男はキッパリと否定した。


「粉モンにご飯は合わないだろ。お好み焼きとご飯を一緒に食べるなんて想像出来ないね」

「もうあんたの基準が分からんわ!」


 髭面が優男に突っ込む。

 今日もお気楽な二人であった。

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