第216話 五月四日はみどりの日(Greenery Day)

 自然に親しむとともにその恩恵に感謝し、豊かな心をはぐくむ国民の祝日。

 元々は昭和天皇の誕生日である四月二十九日で、昭和天皇が生物学者であり自然を愛したことから一九八九年より「みどりの日」という祝日とされた。二〇〇七年より四月二十九日は「昭和の日」となり、みどりの日は五月四日に移動された。



※今回の話は「三月二十五日は散歩にゴーの日」の続編になります。


「散歩に行くよ」

「はーい!」


 俺が呼び掛けると、嫁さんも一緒に付いて来る。最近の我が家の休日ルーティーンだ。

 マンションから出るとすぐに、嫁さんが手を繋いで来る。俺もその手を握り返す。


「暖かくなってきたね」

「うん、もう完全に上着は要らないね」


 嫁さんの言葉に俺が応える。

 道路沿いの歩道を歩いていると、コンビニの前に着く。


「今日は買わなくて良いの?」


 俺達はいつも、このコンビニでアイスを買って、食べ歩きしながら散歩を続けている。


「うん、今日はそれがあるからね」


 嫁さんは繋いだ手と違う方の手で、俺が手に持ったトートバッグを指差す。

 今日はいつもと違い朝食を食べていない。嫁さんが公園で朝食にしようと、サンドイッチを作ってくれたのだ。


「そうだね。まだ朝食も食べてなかったね」


 俺達はコンビニを素通りして公園に向かった。

 ゴールデンウィークだが、午前十時とまだ早い時間だからか、公園内はそれほど人が多くない。


「緑が綺麗ね」

「ああ、青々としてるね」


 公園の木々は新たな生命を誇るかのように、多くの新緑を身に纏っている。その新緑がが日の光を受けキラキラと輝いていた。


「緑なのに青々って変な表現だね」

「大昔は色の分類が『白』『赤』『青』『黒』の四色しかなかったからだよ。緑は青に分類されてたんだ」

「へーそうなんだ! 凄い! 頭良い! よく知ってるね!」


 俺が知っている雑学を披露すると、妻はいつも大袈裟なくらい感心して褒めてくれる。そのキラキラした嫁さんの目を見ていると、凄く物知りになった気がして気持ち良い。


「どこでサンドイッチ食べようか?」

「あっ、あそこが良い。人も居ないし」


 嫁さんは桜の木の下を指差した。


「そうだね。あそこで食べよう」


 俺達は桜の木の下に行って、芝生の上にレジャーシートを敷いた。


「さあ、どうぞ!」

 嫁さんがサンドイッチを差し出す。たまごサンドやハムサンド、レタスの緑が木々に負けないくらい鮮やかだ。


「凄く美味しい! 料理の天才だね!」


 さっきのお返しに大袈裟なくらい褒めてみた。


「ありがとう」


 ちょっと照れながらお礼を言う嫁さんが可愛い。


「ご馳走さま! 美味しかったー」


 食べ終わった嫁さんは、レジャーシートの上に寝転んだ。


「ご馳走さまー」


 俺も真似して嫁さんの横に寝転ぶ。

 嫁さんが手を繋いできたので、俺はその手を握り返した。


「気持ち良いね」

「ああ、本当に気持ち良い」


 緑の下に寝転んでいるだけなのに、本当に気持ちい。それはきっと横に大好きな嫁さんがいるからだ。

 俺達は十分に緑を楽しんだ後、公園を出てマンションに向かった。


「あっ、あんなところにコンビニがあるよ!」


 さっき前を通り過ぎたところなのに、そんな初めて見つけたみたいに言って……。


「アイス買ってく?」

「うん、そうしよう!」


 俺達はコンビニに入り、いつものモナカアイスを買った。


「美味しいね!」

「ああ、美味しいね!」


 俺達は笑顔でアイスを食べながら、幸せな気持ちでマンションまで帰った。

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