第215話 五月三日はゴミの日

 五(ご)三(み)で「ごみ」の語呂合せ。



「お惣菜のトレイは汚れを落としてプラゴミにっと……」


 夫が台所で呟きながら、夕食の後片付けをしてくれている。食事の後片付けは夫の担当なのだ。


 私たち夫婦は結婚相談所で出会って、もうすぐ結婚して一年だ。結婚が前提の相談所で出会ったと言うこともあって、初対面から半年ほどで結婚。もちろんその間に何度もデートはしたし、結婚後の条件は話し合った。一緒に生活しても問題ないと思えたから結婚したのだ。

 夫は私より五歳年上の三十五歳。お互い正社員の共働きだ。

 夫は独り暮らしが長いので、自分は家事を一通り出来ると言っていた。給料は二人分を私が一括して預かり、やりくりする。個人が使うお金は私が預かった中から、お互い毎月お小遣いとして一定金額を貰う。家事は均等になるように分担制。この条件は全てが私の希望通りで、夫はそんな生活を約束してくれた。


 だがしかし、いざ結婚して二人の生活が始まると、私が思っていたのとは違う部分が出て来た。それは夫が約束を破ったということでは無い。ちゃんと小遣い制で文句も無く生活してくれているし、そのお陰で貯金も十分に出来ている。家事も決められた分担を守って、やってくれてはいた。ただ問題はその家事レベルは思ってたより低かったことだ。

 夫の家事は、いわゆる「四角な座敷を丸く掃く」というやつで、どの家事にしても、とりあえずやりました、なレベルだった。姑のように、家事に対して一々文句を言うのも気を悪くするかもと、しばらく様子を見ていた。だが、何も言わなければ改善するはずも無く、油分が残ったお皿や部屋の隅に残ったほこり、汚れが残っているのにプラゴミに捨てるとかは、どうしても見過ごせない。私は夫と家事について話し合うことにした。


 私はもしかしたら結婚生活が破綻するかも知れないという覚悟で話し合いを始めた。だって、誰だって自分がやった家事に文句を付けられたら面白くないだろうから。ましてや夫は、自分では家事が出来ると思っている年上の男性だ。私から言われても、プライドが邪魔して素直になれないかもと思っていた。

 だが、いざ話し合いを始めると、その考えは杞憂だった。夫は私の指摘に感心し、自分の不出来を詫びてくれた。そして、良ければ、自分に家事のノウハウを教えて欲しいとまで言ってくれたのだ。

 私は少し驚いたし、嬉しかった。こんなに積極的に改善しようと言ってくれるとは思って無かったからだ。このことで夫を尊敬する気持ちさえ持てた。

 その後、私は夫の担当する家事を一緒にやりながら、ノウハウを教えた。夫は素直に聞いてくれて、すぐに覚えて、見る見る家事力を付けてくれた。今ではゴミの分別方法や日程は夫の方が詳しいくらいだ。


 時々、どうしてこんな人が三十五歳まで独身だったんだろうと、不思議な気持ちになる。こんなに素直で優しいし、頼りがいのある男性はなかなか居ないだろうと思う。確かに見た目は中の下ぐらいかも知れないけど、それを補って余りあるくらい魅力的な男性だ。

 私は本当にラッキーだった。この幸運に胡坐をかいてしまわないように、女性として日々努力しよう。そうすれば、きっとお腹の子供も幸せに暮らせるだろうから。

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