第210話 四月二十八日は四つ葉の日

 大阪府大阪市に本社を置き、「幸せあふれる未来を創る」を企業理念に掲げ、電力コスト削減に取り組む四つ葉電力株式会社が制定。

 愛、希望、幸福、健康の意味を持つとされる四つ葉のクローバー。多くの人に日々の生活の中でこの四つ葉のクローバーのような幸せを見つけてもらうのが目的。

 日付は四と二十八で「四(四)つ(二)葉(八)」と読む語呂合わせから。



※今回のお話は「三月二十八日は三つ葉の日」の後日談です。この話だけでも読めますが、前作も読めば面白さ倍増です!


「ただいま」

「おかえりー!」


 俺が帰宅すると、奥から妻が笑顔で駆け寄って来た。


「今日は早かったんだね」


 うちは子供が居らず、夫婦で共働きだ。今日は出来れば定時で帰って欲しいと妻から連絡があったので早く帰って来たのだが、もう妻は部屋着になっていて、奥から美味しそうな料理の匂いまで漂って来ている。かなり前に帰っていたようだ。


「今日は有給休暇取ったからね」

「えっ、そうなんだ?」


 俺は全然聞いて無かったので驚いた。


「はい、これ」


 俺が有給休暇を取った理由を聞こうとしたら、妻が目の前に小さな葉っぱを差し出した。


「何これ?」


 俺は理由を聞くのも忘れて、妻の差し出した物をよく見ると、四つ葉のクローバーだった。


「これ、四つ葉のクローバーじゃないか」

「そう、あなた昔集めてたでしょ」


 俺と妻は高校一年生の頃に付き合いだした。付き合いだした頃、俺は四つ葉のクローバーを集めていた。珍しい、特別な四つ葉のクローバーを持っていると幸せになれると信じていたからだ。でも当時の妻の言葉、「特別じゃなくても、どこにでもある普通の物でも、きっと幸せは見つかると思う」に心打たれて、それからは四つ葉のクローバを探していなかった。

 でもあれから十年。妻が言った通り、俺達は特別秀でた存在じゃないけど、凄く幸せに暮らしている。


「今日、病院の庭でクローバーの茂みを見つけてね。なんかビビッと来て探してみたらすぐにこの四つ葉のクローバーが見つかったのよ」

「病院って、どこか具合が悪いの?」


 有給休暇と言い病院と言い、四つ葉のクローバーより、そちらの方が気になった。


「違うよ。妊娠してたのよ」


 一瞬何を言われたのか分からなかった。でも、笑顔の妻を見てすぐに理解した。


「妊娠? ホントに? やったー!」


 俺は妻に抱き着いた。


「ハッキリ分かるまでは、ガッカリさせるといけないから言えなかったの。でも、今日病院に行ったら、妊娠してるって分かってね」

「そうか……いよいよ俺も父親か……」


 俺は妻から体を離し、しみじみとそう言った。


「でね、この四つ葉のクローバーを見つけたのも運命だと思うの。だから子供の名前は、四と葉で男の子だったら『しよう』女の子だったら『よつは』でどうかな?

 この子は特別じゃない私達に、きっと今まで以上の特別な幸せを運んできてくれる気がするの。だから四つ葉のクローバーにちなんで四の葉で」


 妻はお腹をさすりながらそう言った。


「うん、良いね。凄く良いよ」


 俺も妻の手の上に自分の手を合わせ、お腹をさすった。


「幸せだね」と笑顔で妻が言う。

「ああ、幸せだね」と笑顔で俺が返す。


 今でも幸せなのに、これ以上幸せになったらどうなるんだろうか? 四葉くん? 四葉ちゃん? どちらでもお父さんとお母さんが目一杯幸せにしてあげるからね。

 俺はもう一度妻を抱きしめた。

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