第196話 四月十四日はフレンドリーデー
株式会社スーパープランニングが二〇〇〇年十一月に制定。
四(よ)一(い)四(よ)で「(友達って)よいよね」の語呂合せ。
自分にとって大切な友達と友情を確認しあう日。
私、霧島凛子にとって高校三年になる今年度は勝負の年。志望する国公立大学目指して猛勉強の一年が始まった。
クラス替えがあり、親友の依里と麗美が同じクラスになった。あと、一か月前から付き合いだした伊藤康介君も同じクラスになった。凄くラッキーなのだが、浮かれてはいられない。私以外の三人は成績が学年でもトップクラスで、志望大学は十分狙える成績を取っている。でも、私はかなり頑張らないと合格ラインには届かないのだ。
伊藤君と付き合いだしたけど、春休みも勉強を頑張っていたので、デートは告白された日に行った水族館だけだ。毎日ラインで連絡を取り合っているが、まだ仲の良い友達感覚だ。
「ねえ、凛子たちは明日が付き合って一か月目の記念日なんじゃないの?」
「ええ、そうだっけ?」
昼休みに教室でお弁当を食べていたら、麗美が私に聞いてくる。
「自分のことなのに関心ないのね」
「麗美ちゃんが記念日とか気にするとは思わなかったわ」
依里が意外そうに麗美に言う。
「私は誰かと付き合ったこと無いから、記念日気にしたこと無いんだけどね」
麗美はおどけた感じで笑った。
「一か月か……全然意識してなかったなあ……」
「これを機に何かイベント的なものやってみたら? 付き合いだしてから進展してないんでしょ?」
麗美の言っている意味は分かっている。付き合いだしてから一か月、まだ恋人としての実感は無い。
「うーん、別に焦る必要は無いと思うんだけどね」
「でも、伊藤君はそう思ってないかも。だって向こうは男の子でしょ」
自分も付き合ったことが無いくせに、依里が知ったようなこと言ってくる。
「何よ男の子って。男の子だったらどうだって言うの?」
「二人っきりの時に、手を繋いで来たりしないの?」
麗美が身を乗り出して小声で聞いて来る。
「ないない。伊藤君そんなキャラじゃ無いでしょ」
「案外そんなもんなんだ」
依里がつまらなさそうに言った。
「一か月記念日で何かした方が良いのかな……」
「今日一緒に帰って相談してみたら?」
「でも、記念日こだわる女って引かれないか心配だな……」
二人に勧められても、いまいち気が乗らなかった。
「大丈夫だよ。好きな子が記念日を大切にしてくれるって嬉しいものだと思うよ」
「そうかな……じゃあ相談してみる」
依里にも背中を押されて、伊藤君と相談することにした。
放課後になり、私は図書室で勉強しながら伊藤君の部活が終わるのを待った。
「お待たせ。ごめんね、遅くなって」
夕方になり、待ち合わせ場所にしていた下駄箱前に、部活が終わった伊藤君が来てくれた。
「一緒に帰る為に待っててくれたなんて嬉しいな」
「まあ、私は勉強頑張らないと駄目だからね」
「そうなんだ……」
照れ隠しに勉強を理由にしたら、伊藤君が少し残念そうな顔をした。
そうか、今の言い方だと勉強するついでに、一緒に帰るみたいに受け取られちゃうな。失敗したなあ。
「勉強は進んでる?」
「うん、でもまだ手ごたえ無くて……」
「大丈夫だよ。霧島凄く頑張ってるもん。絶対に成績上がると思うよ」
「ありがとう」
こうやって、自分の努力を褒めて貰えると凄く嬉しい。それが彼氏だから、尚更嬉しかった。
その後は、勉強のこととか部活のこととか話しながら帰った。
並んで歩いていると、時々、腕が触れ合ったりした。伊藤君は手を繋ぎたいと思っているのだろうか? 私は繋いでみたい。でも、女子の方から積極的だと引かれるかな。そう考えると、勇気が出なかった。
もうすぐ、帰る方向が別になる別れ道に近付いて来た。
「あれ? 伊藤君は右の方に行くんじゃないの?」
別れ道でサヨナラしようと思ってたら、伊藤君が私の帰る方向に付いて来た。
「遅くなったから送ってくよ」
「ええっ、悪いよ」
「大丈夫だって」
そう言って笑う伊藤君の優しさに心の奥をキュッと捕まれた気がした。
「ありがとう」
私は素直に送って貰うことにした。
あっ、そう言えば一か月記念日の話をするのを忘れてた。それが目的だったのに。
でもいざ言うとなると勇気がいる。いくらなんでも一か月は早いんじゃないかと感じ出したのだ。
「あのさ、伊藤君って交際の記念日とかどう思う?」
とりあえず遠回しに聞いてみた。
「記念日か。俺達はホワイトデーだから覚えやすいよね。来年は二人とも大学に合格して、記念日にお祝いしよう」
「う、うん、そうだよね……」
やっぱり一年か。この様子じゃあ、一か月どころか、半年でも記念日なんて考えて無さそう。
結局私は言い出せずに、家まで送って貰って別れた。
「結局言えなかったんだ」
夜にラインで報告していたのだが、朝になって学校で顔を合わせたら、麗美に責められた。
「凛子ちゃんって、案外ここぞって時に弱いからね」
「面目ない」
なんで当事者の私が責められるのか分からないが、依里にも謝った。
「仕方ないなあ……」
麗美はそう言うと、依里に目配せする。
「凛子ちゃん、今日の放課後は三人で、図書室で勉強しよう」
「良いけど、勉強するなら家でも良いよ」
「今日は図書室が良いの」
何を企んでいるのか分からないけど、麗美と依里はにんまりと笑って、私を見ていた。
放課後になり、私達は図書室で勉強を始めた。何か仕掛けがあるのかと身構えていたけど、普通に真面目な勉強会だった。私は麗美や依里に質問しながら、ガッツリ勉強していた。
「もうそろそろ終わりの時間だね。今日は二人に教えて貰って、勉強がはかどったわ。ありがとう」
「どういたしましてよ!」
依里が笑顔でそう言った。麗美は何も言わずに出入り口を見ている。
「来たよ!」
麗美の言葉と共に、三人の男子が「お待たせー!」と言って入って来る。三人は野球部の三年生。その内の一人は伊藤君だった。
三人が私たちの目の前までやって来た。
「どうして、伊藤君たちが……」
他の笑顔を浮かべた二人と違い、伊藤君は戸惑った表情をしている。
「伊藤君、霧島さん、付き合って一か月記念日おめでとー!!」
伊藤君と私を取り囲み、四人は笑顔で祝福してくれた。
「ええっ!!」
私と伊藤君は同時に驚く。
「依里と相談して、私達でお祝いすることにしたの。今日はこれからみんなでカラオケに行くよ。もちろん、凛子と伊藤君は私たちの奢りでね」
得意気な顔して話す麗美の言葉に驚き、私は伊藤君と顔を見合わせた。
「ありがとう。ホントに良いの?」
「良いけど、凛子ちゃんと伊藤君は、何かデュエットで歌ってね!」
依里が笑顔で応えてくれた。
その日のカラオケは、今までで一番楽しかった。デュエットの時、みんなに囃し立てられて、伊藤君が手を繋いでくれた。恥かしかったけれど嬉しかった。
依里と麗美。二人の友情に凄く感謝している。
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