第190話 四月八日は柴犬とおっさんの日
さまざまな映像作品を制作、供給するAMGエンタテインメント株式会社が制定。二〇一九年六月十四日に公開される映画『柴公園』を多くの人に観てもらい、柴犬の魅力を広めることが目的。
綾部真弥監督の作品『柴公園』は、渋川清彦氏、大西信満氏、ドロンズ石本氏、佐藤二朗氏らが共演の街の公園で柴犬連れのおっさんがダラダラとしゃべるだけの会話劇。
日付は四と八で「し(四)ば(八)」の語呂合わせから。ちなみに「記念日登録証」には主役の柴犬の「あたる」と「あたるパパ」が連名で記載されている。
俺はテイクアウトメインの飲食店を経営しているのだが、お客さんに「柴犬のおじさん」と密かに呼んでいる、とても癒される常連さんが居る。
おじさんの年齢は六十代位か。もちろん、おじさんが可愛いとかいう話ではない。じゃあ、なぜそのおじさんに癒されるのかと言うと、いつも連れている柴犬君とのコンビが微笑ましいのだ。
おじさんはいつも、柴犬君の散歩途中で店に来てくれる。おじさんは注文を終えると、料理を待つ間は店の前の椅子に座っている。柴犬君はおじさんの行動を全て理解しているかのように、一言も吠えたり唸ったりせず、おじさんの横にちょこんとお座りして待っている。その時の柴犬君とおじさんの姿は、銅像にしても良いくらい見事にハマっているのだ。
柴犬君が退屈しているんじゃ無いかなって思うこともあるが、彼はすました顔で大人しく座っている。時折り、おじさんの顔を見上げて二人が声を出さない会話をしているが、その時の柴犬君の顔はとても可愛くて尊い。
おじさんと柴犬君は言葉を交わせない筈なのに、言葉でコミュニケーション取れる人間同士より、分かり合えているように見える。俺は動物を飼ったことが無いのだが、言葉が通じないからこそ生まれる信頼関係があるのだと、二人を見ていて思う。
料理が出来上がり、袋に詰めて俺が窓口に向かうと、それまで大人しく座っていた柴犬君がすくっと立ち上がる。俺の行動まで理解しているのだ。
俺は猫派なのだが、こんな柴犬君なら飼ってみたいと思ってしまう。
「ありがとうございました!」
おじさんに商品を手渡すと、二人はまた散歩の続きを始める。いつも俺は、その後ろ姿を見送りながら「いつまでも二人仲良く暮らしてください」と心の中で声を掛けている。
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