第189話 四月七日は夜泣き改善の日

 大阪府大阪市の樋屋製薬株式会社が制定。同社の「樋屋奇応丸」(ひや・きおーがん)は厳選された生薬から作られた小児薬で、高ぶった神経を鎮め、心と身体のバランスをととのえることで赤ちゃんの夜泣きを改善する。「樋屋奇応丸」をより多くの人に知ってもらい、赤ちゃんと親御さんの健康を守るのが目的。

 日付は四と七で「夜=よ(四)泣=な(七)き」の語呂合わせから。



 我が家は今、五十代後半の夫婦二人暮らしだ。息子二人はもう成人して家を出た。今はのんびり、二人のペースで生活している。


「なあ、うちの息子たちは夜泣きをしたのか?」

「えっ?」


 夫婦二人で夕食を食べていると、夫が突然昔の話を聞いてきた。


「そりゃあ、二人とも夜泣きしたわよ」

「その時、俺はどうしてた?」


 夫が少し身を乗り出すように聞いて来る。


「良く寝てたわ。あれだけ大きな声で泣いてるのに、良く寝てられるわって感心してたよ」

「そうなのか……」

「どうしたのよ、今更」


 夫が少しがっかりしたような顔をしたので、気になった。


「いや、今日若い奴らと子供のことで話をしたらさ、若い奴らはみんな当たり前のように、育児に参加してるんだよな。子供が夜泣きしたら、ちゃんと起きてあやしたりしてるみたいなんだよ。それで俺はどうだったかなって。もうずいぶん昔のことだから覚えて無くって」

「今の若い人はそうみたいね。イクメンって言葉があるくらいだから。時代が違うのよ」

「そうだな……」


 夫はそう言った後、考え込むように黙ってしまった。


「どうしたの?」


 夫が深刻そうな顔をしているので、私は訊ねた。


「悪かったな。全然手伝わなくて。しなきゃいけないって気持ちすら無かったよ」


 夫は少し頭を下げて、そう言った。


「やめてよ、そんな昔のことで。今はもう何にも思って無いよ」

「昔は恨んでたんだろ?」

「いや、今とは時代が違ったのよ。昔は妻が起きてあやすのが当たり前って時代だったし、私もそう思ってたから。それに子供達が小学生になるまではずっと専業主婦だったんだから。今は共働きが多いから、育児も手伝えってなっているのよ」


 まさか二十年以上前のことを謝られるとは思わなかった。もうあの当時どう思ってたかさえ覚えて無い。まあ、覚えてないってことは、それほど恨んでなかったってことだと思う。


「そうか……ありがとう。子供達の幼い頃を思い返すと、俺って何にもやって無かったなって思うことがあってな。もしかしたら恨まれてるのかって心配してたんだ」

「その分、しっかり仕事してくれたじゃないの。もし恨んでたら、子供達が家を出たところで熟年離婚してるよ」

「うん、また二人での生活だけど、このまま仲良く過ごして行こうな」

「そうね。まだ二十年はあるでしょうからね」

「定年になったら、ゆっくり旅行に行きたいな」

「いいね。近場でも良いから、少し期間を長めにして温泉に行きたいわ」


 こうやって話し合える夫で良かった。

 確かに子育ては大変だ。でも、長い夫婦生活を思えば短い期間だ。あの時、夫婦の絆が壊れていたら、今の幸せは無かっただろう。

 子育てに関して、今の方が大変なのか、昔の方が大変だったのかは分からないけど、今現在子育て中のお父さんお母さんが幸せに過ごせますようにと、私は心の中で願った。

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