第179話 三月二十八日は三つ葉の日

 「み(三)つ(二)ば(八)」の語呂合せ。



 俺は四つ葉のクローバーを集めていた。子供の頃に聞いた「四つ葉のクローバーを見つけると幸せになれる」って言葉を信じていたのだ。そんな感じで、高校生になるまでクローバーを見掛けたら、四つ葉を探していた。


 高校生になった俺は、一年の時に彼女が出来た。彼女は美人ってタイプでは無かったのだが、いつも笑顔で性格が明るく、自分の意見をしっかり持っている女の子だった。

 彼女と付き合いだして初めてのデート。俺達はお弁当を持って、彼女が好きだと言う動物園に出掛けた。

 動物園デートは楽しく、良い雰囲気でお昼時間になった。園内に芝生の広場があったので、俺達はそこでお弁当を食べることにした。


「あっ、ちょっとだけ良い? 五分だけ、待っててくれる」


 俺は芝生広場の片隅にクローバーを見つけ、四つ葉のクローバーを探そうと思った。


「もしかして、四つ葉のクローバーを探してるの?」

「ああ、俺は小さい頃から四つ葉のクローバーを集めているんだ。もし見つかったら、あげるよ」

「ありがとう。私も探してみるね」


 俺達は二人して、芝生の上に膝を着き、四つ葉のクローバーを探した。


「なかなか見つからないね」

「なかなか見つからないから良いんだよ。特別な物だから、手に入れると幸せになれるんだ」


 俺は地面のクローバーを見つめながら、彼女に話した。


「はい」


 彼女が俺の目の前に、一本のクローバーの葉っぱを差し出した。


「あっ、見つかったの?」


 俺は四つ葉のクローバーが見つかったのかと喜んだが、よく見たら彼女の持っているのは三つ葉だった。


「えっ、これは……」

「三つ葉でも良いじゃない。特別じゃなくても、どこにでもある普通の物でも、きっと幸せは見つかると思うよ。だってさ、特別じゃ無きゃ幸せになれないのなら、この世界は不幸ばかりになるでしょ」


 そう言って、彼女は笑った。


「あっ……」


 俺は目から鱗が落ちる気がした。

 そうだ。彼女の言う通りだ。この世の中は不幸ばかりじゃない筈だ。普通でも、特別じゃなくても幸せな人はいっぱい居る。


「ありがとう」


 俺も笑顔になって、彼女の差し出す三つ葉のクローバーを受け取った。


 あれから十年経った。あの時貰った三つ葉のクローバーは今でも大切に保管している。

 現在は妻となった彼女は、当時と同じように毎日笑顔だ。俺も彼女も特別な物を持ってはいない。言うなれば三つ葉のクローバーだ。でも、今はとても幸せに暮らしている。

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