第176話 三月二十五日は散歩にゴーの日
ユニチャームが二〇一〇年に、同社の高齢者向けの転倒時の怪我防止ガードルのPRのために制定。
「さんぽ(三)に(二)ごー(五)」の語呂合せ。
「じゃあ、散歩に行って来るよ」
朝食の片付けが終わったので、俺は嫁さんに声を掛けてマンションから出て行こうとした。
「あっ、ちょっと待って。私も一緒に行く!」
奥から嫁さんが慌てて出て来た。
「えっ、珍しいね」
「たまには良いでしょ」
笑顔でそう言う嫁さんと一緒に、俺は散歩に出掛けることとなった。
俺は休みの日は、朝食が終わると散歩に行くことにしている。決まったコースを三十分ほどで回ってくるだけなんだが、微妙に変わっていく景色が季節を感じ取れて好きなんだ。
嫁さんとは結婚して二年になる。何回か散歩に誘ったことはあるが、いつもめんどくさいと断られていた。今日は自分から一緒に行くと言ってくるなんて、どういう風の吹き回しだろうか。
散歩のコースはマンション沿いの道路の歩道から始まる。秋になると紅葉が綺麗な、銀杏の街路樹が並んでいる道路だ。
横を歩く嫁さんが手を繋いできた。
「へへっ」
いつもは手を繋いで歩かないので、驚いた俺が顔を見ると、嫁さんは照れ隠しに笑う。その顔が可愛くて、俺はまあいいかと、そのまま手を繋いで歩いた。
「あっ、あんな所にコンビニがあるよ!」
そんな初めて見つけたみたいに言ってるけど、もうここに二年も住んでいるんですが。
「ねーアイスでも買って、食べながら散歩しようよ」
「ええっ、手がべたべたになるよ」
「最中アイスなら大丈夫よ」
普段は食べ歩きはしないのだが、今日は一緒に来てくれたんだから、アイスぐらい良いか。
俺は嫁さんと一緒にコンビニに入り、最中アイスを買って食べながら歩き出した。
「美味しいね」
「ああっ、美味しいね」
幸せそうな顔してアイスを食べる嫁さんを見ていると、こっちまで幸せになって来る。
「そこ、左に曲がるよ」
俺たちは道路沿いの歩道から、住宅街の中に入って行く。
「もう少し行くと公園があるんだ」
住宅街の中に緑の多い公園がある。俺はいつもその公園内で森林浴してから、またマンションに向かって帰るのだ。
「緑の多い公園ね」
「そう、気持ち良いだろ」
「ホント、空気まで違う気がするね」
嫁さんも満足そうだ。
「あっ、桜が咲き始めている!」
嫁さんが桜の木を指さしてそう言った。
「まだ少し早かったか」
まだチラホラと少し咲き始めた段階で、満開にはまだ日が掛かりそうだった。
「来週ぐらいが見頃かもね」
公園内は桜の木も多い。この桜が満開になる期間が、散歩していて一番楽しい時期だ。
「そのアイスの袋を持ってあげる」
公園を出て歩道に戻ると、嫁さんは俺が食べたアイスの袋を持ってくれた。なぜそんなことをと思っていたら、また手を繋いできた。俺が袋を持っていたのは、嫁さんに近い右手だったのだ。
やっぱり手が少しべたついているけど、嫁さんはお構いなしだ。俺も、まあ良いかとそのまま手を繋ぎ続けた。
「来週は桜が咲いてるかな?」
「ああ、満開だと思うよ」
「じゃあ、来週も一緒に散歩しよ!」
「ああ良いよ。来週と言わず、毎週でも」
嫁さんは返事の代わりに、繋いでいた手を放して、腕を絡めて来た。
毎週、一緒に散歩できるなら嬉しいな。夫婦二人で季節の移り変わりを感じられるから。
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