第170話 三月十九日は眠育の日

 大阪府大阪市に本社を置き、繊維製品や健康寝具などの製造販売を手がける西川株式会社が制定。発育における子どもたちの睡眠の大切さ、成長とその関係性などを知ってもらい「眠育®」を幅広い世代に認知拡大していくことが目的。

 日付は三と一と九で「みん(三)い(一)く(九)」と読む語呂合わせから。



 目の前で機嫌よく遊んでいた三歳の息子が、ちょっとしたことで泣き出し、ついには火が点いたように泣き叫び出した。ずっと見ていたから、何か怪我したとかではない。ただ単に、もうそろそろお昼寝の時間だから眠くなってぐずっているんだと思う。

 ここは俺の出番だと、息子を抱っこした。

 俺に抱っこされても、息子は泣き止まない。でも、かすかに揺らしながら、背中を軽くトントンしていると、だんだん大人しくなる。そして最後には眠ってしまうのだ。

 俺は嫁さんに目配せして、寝室に布団を敷いて貰う。

 息子を起こさないように寝室に運び、ゆっくりと布団の上に寝かせて寝顔を眺める。涙が伝った跡が残っているのに、その寝顔は安らかだった。

 俺は息子の寝顔を見るのが大好きだ。無防備に寝ている息子の顔を見ていると、日頃の疲れが吹き飛んでしまう。俺にとって最高に癒される時間だ。

 俺は柔らかそうな頬っぺたに指を伸ばして触ろうとした。


「もう、起きちゃうでしょ」


 横で一緒に寝顔を見ていた嫁さんに怒られた。俺は仕方なく指を引っ込める。


「可愛いな。ホント天使みたいだ」

「ずっとこのままでいて欲しいぐらいよね」


 このまま息子が何歳になっても、安心して眠れる環境を守り続けたい。

 何かに怯えたり、心配したりすることのない、子供がいつも笑顔で過ごせる家庭。まずは夫婦が仲良く信頼し合っていることが必要だと思う。


「由佳、大好きだよ」

「ええっ、どうしたのよ急に」


 嫁さんは突然の言葉に驚いたようだ。


「悠馬の寝顔を見てたら、幸せだなって思ってさ。それも由佳が居てくれるからだって思うから。本当に感謝しているよ」


 由佳は照れて顔が赤くなる。


「私も耕ちゃんに感謝してるよ。大好き」


 俺達は顔を寄せてキスをした。


「お父さんとお母さんは、お前がずっと安心して眠れるように、この家庭を守って行くからな」


 俺は息子の寝顔に約束した。

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