第167話 三月十六日は財務の日

 財務コンサルティング会社の株式会社財務戦略が制定。

 「ざ(三)い(一)む(六)」の語呂合せと、所得税確定申告の期限の翌日であることから。



「はあ……」


 会社からの帰り道。俺は何度目かのため息を吐いた。

 今日、社長から次年度の給料のベースアップを見送ると通達があった。俺の成績うんぬんじゃなく、会社の経営が苦しいので社員全員が対象とのことだ。様々な経費や原材料が上がっていることの対応策として、うちのような小さな会社では人件費を抑えるしか無いのは理解出来る。だが、生活物価が上がっている中での給料据え置きは実質収入が減ったようなものだ。


「はあ……」


 俺はまたため息を吐いた。嫁さんになんて説明したら良いのだろうか。



「そんなに暗い顔しないで。元気で働いている限りは何とかなるよ」


 帰宅して、子供達が寝てから嫁さんに給料据え置きの件を打ち明けたら、あっけらかんとしてそう言ってくれた。


「こういう時こそ、我が家の財務大臣の腕の見せ所よ。やりくりは私に任せて、あなたは気にせず働いてくれれば良いから」


 嫁さんは決して美人とか可愛いと言われるタイプではない。でも大らかでいつも笑顔を絶やさないでいる。小さなことにクヨクヨせず前向きな考え方をする人間だ。

 一方の俺は小心者で、失敗したらずっと気にして落ち込んでしまうような小さな人間だ。そんな俺だから、嫁さんのことを本当に尊敬している。


「いつも苦労かけてごめんな」


 俺は自分の甲斐性の無さが情けなくて謝った。


「夫婦なんだから、悪いことしたわけじゃ無いのに謝らなくて良いよ。あなたが毎日一生懸命働いているのは分かってるから」


 嫁さんの言葉を聞いて泣けてきた。


「私もパートの時間を増やして貰うようにするよ」

「でも、子供達は寂しがるんじゃないか」

「親が二人とも一生懸命生きてたら、子供達も理解してくれるわ。貧乏だってクヨクヨせずに、毎日明るくしてれば、家族仲良く暮らせるよ」


 嫁さんが笑顔でそう言うと、本当にそうなんだと思わせる説得力がある。


「後は無駄なものを少しずつでも減らして行けば何とかなるよ。うちの財務は私が握ってるんだから、大船に乗ったつもりであなたは心配せずに明るく過ごしてくれれば良いからね」

「ありがとう。本当にありがとう」


 本当に気が楽になった。もし、今回のことで責められてたら、落ち込んでやる気まで無くなってただろう。こんなに俺を支えてくれる嫁さんの為にも、もっと頑張ろうと思えた。次は俺が嫁さんを支えられるようになる為に。

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