第162話 三月十一日はおうえんの日
山下翔一(株式会社ペライチ)、柚木昌宏(bondclub)、高田洋平(マネバナ)の三氏が制定。
二〇一一年三月十一日に発生した東日本大震災では多くの人が亡くなった。その日を忘れることなく、今生きている人たちが小さな一歩を踏み出そうとする人を愛を持って応援することで、人の優しさにあふれる日とするのが目的。
明日は娘の舞子にとって人生初の試練が待っている。公立高校の受験日なのだ。
「なあ、大丈夫かな?」
俺は布団に入っても寝付けず、横で寝ている妻に話し掛けた。
「えっ、大丈夫かって何が?」
「舞子の受験に決まってるだろ」
俺は妻の無関心さに腹が立った。
「もう、せっかく寝かかっていたのに、そんなことで起こさないでよ」
「そんなことって何だよ! 舞子の一生に係ることなんだぞ!」
「大丈夫よ。高校の公立の受験なんて、内申書で半分ぐらい決まるんだから。舞子は内申書で十分点数が取れてるって先生も言ってたでしょ」
妻は少し怒りながら、説明する。
「でも、受験当日にへまするかも知れないだろ」
「それをここで心配してても仕方ないでしょ」
そう言われると返す言葉が無い。確かにここで心配してても何も出来ない。
「ちゃんと寝てるか見て来ようか」
「やめなさいよ。それこそ、寝てても起きてしまうでしょ」
俺は体を起こしかけたが、妻に止められた。
「何かしてやりたいんだよ」
「気持ちは分かるけど、今の私達に出来るのは、心の中で応援することだけよ。それも口には出さないでね。変にプレッシャー掛けたら駄目だから。普段通りに送り出すのが一番なのよ」
確かに妻の言う通りだろう。でも、何もしてやれないのが、親として本当に辛すぎる。
朝になった。結局俺は一睡も出来なかった。ずっと心の中で「舞子頑張れ」って応援し続けた。
「じゃあ、行ってきます」
家から出て行く舞子を、夫婦二人で玄関に出て見送る。
「受験票と筆記用具は持ったか?」
俺は堪らず聞いてしまう。
「さっき確認したから大丈夫」
「もう一度だけ。もう一度だけ確認してくれ」
俺はしつこく確認を迫った。
「うん、有るよ。大丈夫」
舞子は嫌な顔もせずに、鞄の中を調べてもう一度確認してくれた。
「普段通りにな。焦らなくて良いからな」
あれだけ普段通り送り出せと言われたのに、やっぱり心配でいろいろ言ってしまう俺を、妻は苦笑いしてるだけで黙って見ていてくれた。
「お父さん、お母さん、見送りありがとう。二人が応援してくれる気持ちが凄く嬉しいよ。その気持ちを胸に頑張って来ます!」
舞子は笑顔で、試験会場に向かった。
「さあ、後は祈るだけね」
「ああ、心の中で応援し続けるよ」
舞子頑張れ! 何があっても、お父さんとお母さんが付いているからな!
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