第161話 三月十日は砂糖の日
「さ(三)とう(十)」の語呂合せ。
砂糖の優れた栄養価等を見直す日。
人間が寝静まった深夜。ある家庭の台所の調味料置き場での出来事。
「最近俺、凄く肩身が狭いんだよな」
赤い蓋のケースに入れられた砂糖が、青い蓋のケースの中にいる塩に話し掛けた。
「肩身が狭いって? それはどうしてだい?」
「糖質ダイエットってやつが流行った所為か、やたらと悪者扱いされるんだよ。ノーシュガーやら合成甘味料やら、俺が入ってると毒物扱いだよ」
砂糖は塩の疑問に答えた。
「なるほどね。でも私もそうだよ。減塩減塩って悪者扱いさ。君と同じようなものだよ」
「いやいや、お前は必要とされてるだろ。夏場なんか熱中症対策で引っ張りだこじゃないか。塩キャンディーみたいに、本来は俺の独壇場なものにまで使われるぐらいだからな」
砂糖は塩に反論する。
「お二人は十分に恵まれてますよ。ちゃんと専用の容器に入れて貰えるぐらい扱いが良いですからね。私なんか、買ったままの瓶に入れられたまま使われるんですよ」
横に居たお酢がひがんだような口調で、会話に入って来る。
「そんなことは無いよお酢君。君は健康に良いって人気者じゃないか。君を悪く言う人は居ないだろ」
「そうそう。お酢は俺達と違って、減らせなんて言われないからな。お前は健康に良いって評判だよ」
塩がお酢を擁護すると、砂糖も同意する。
「あなた達はそう言ってくれますが、実際私のことを酸っぱいから嫌いって言う人が多いんですよ。子供なんか露骨に嫌がったりしますからね。あれって本当に傷付きますよ」
お酢は悲しそうな声で呟く。
「でもノンシュガーとか言われるのも傷付くぜ」
「お砂糖さん。あなたはイケメンのホストみたいな物なんですよ。みんな甘い物は大好きじゃないですか。ホントは好きで堪らない。毎日、好きなだけ食べたい。でもホストと同じで、量が過ぎると害がある。みんな我慢しているだけで、本当は人気者なんですよ」
「へーそうなんだ。実は俺、人気者なんだな」
お酢のたとえ話は良く分からなかったが、砂糖は良い方に受け取って納得した。
「そうですよ。お塩さんは、ちょっと小言がうるさいけどいざと言う時に頼りになる上司みたいな物です。なんだかんだ言っても、無くてはならない物なんですよ」
「私もそんな重要な物だったんですね」
塩もお酢のたとえはよく理解出来なかったが、褒められていると思って納得した。
「私なんて、優しくて相手のことを気遣っているのに、良い人止まりで恋人になれない陰キャみたいな物なんですよ。悪く言う人は居ませんが、いざ『じゃあ付き合う?』って言われればみんな断るって悲しい奴なんですよ~」
「いや、そんなこと無いって。お酢は健康に良いって評判だし、好きな人だって居るよ」
「そうですよ。お酢君は自分で思っているより人気者です。私が保証します」
泣き出してしまったお酢を、砂糖と塩が慰める。
「ありがとうございます。お二人は優しいですね。さすが調味料の王様と女王様です」
「えっ? 王様と女王様って、どっちがどっち?」
「私はもちろん王様ですよ」
「ええっ! 俺が王様で塩が女王様だろ!」
「いや私の方が……」
こうして、台所の夜はにぎやかに更けていくのであった。
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